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2012.06.04

人海戦術から「おひとりさま開発」の時代へ

 NTTデータの山下徹社長が「受託ソフト開発に寿命が来ており(いずれ)なくなる」、「受託ソフト開発会社は生き残れない。当社だって、変わらなければ生き残れない」と発言して話題になっている(受託ソフト開発会社は、もう終わり!:ITpro)。SIerの大元締めのようなNTTデータのトップ自らが言うのだから、業界上層部の危機感は相当なものなのだろう。

 ここで注意してほしいのは、彼らのような大手SIerが言う受託開発案件が「大型案件」を意味する点だ。下請を活用した人海戦術で大型案件から利ざやを得る――そういうスタイルでSIビジネスは成長してきた。その結果、多重下請の裾野が海外にまでピラミッド状に広がり、多くの開発企業が薄い利益を掬い取る形の産業構造を成している。

 そして当たり前のことだが、事業体が仕事を回してゆくためには業務システムが必要だ。ひとくちで業務システムといってもいろいろな形態があるが、その需要がなくなることはない。つまり、正確にいえば「業務システムの受託開発に寿命が来た」のではなく「人海戦術で業務システムを手作りするやり方に寿命が来た」という話である。

 ではなぜ人海戦術方式に寿命が来たのか。理由は2つ。まずコストパフォーマンスの問題だ。このやり方では投資に見合う効果が得られないことが知れ渡ってしまったからだ。大勢の技術者が寄ってたかって血涙を絞ったあげく、使いにくく保守しにくいシステムが納品される。従来型の受託開発に関わったことのある技術者なら、誰もが苦い体験として思い出せるだろう。IT投資が「分の悪いギャンブル」として愛想を尽かされたとしてもしかたがない。

 2つ目の理由。基幹システムのような複雑なソフトウエアを効率的に開発できるOSSプラットフォームが登場しているからだ。その上で稼動するモデルシステムさえ公開され始めている。これらを搭載したPaaSを使えば、モデルシステムを微調整するだけで基幹システムが手に入る。特殊な案件でない限り頭数は要らない。実質1名などといった少数精鋭での開発体制が常態化し、契約形態もより柔軟になる。いわゆる「内製」のフリーハンドも広がる。この体制を象徴的に「おひとりさま開発」と呼ぼう。

 とうぜん、大手SIerは生き残るために変わろうと努力するだろうが、組織としてこの状況に適応するのは容易ではない。なぜなら、働き盛りのプロパーの多くが「(外注管理を得意とする)プロジェクト管理者」として成熟してしまっているからだ。ところが、「おひとりさま開発」の要員は必然的に多能工、ひとことで言えば「分析・設計できるプログラマ」でなければならない。そんな人材に転向できるかどうかは、けっきょく本人の意欲と適性に恃むしかない。

 いずれにせよ、まともな技術者が報われるような変化を期待したい。私としても変化が健全な方へ向かうように協力したい。とくに技術者が「分析・設計できるプログラマ」に成長するための手助けができればと思う。

 そこでまず、基幹システムを「おひとりさま開発」するためのOSSプラットフォーム「XEAD」のセミナーを開催する。変わりたいと願うSIerのマネージャも、会社をあてにせず自分の身は自分で守ると決めた技術者も、SIerに頼らず内製したいと考えているユーザ企業のシステム担当者も、ぜひ参加していっしょにこれからの働き方を考えてほしい。

<特別セミナー>
クラウド基幹システムを「おひとりさま開発」しよう

人海戦術での受託開発を前提とする「SIの多重下請構造」は早晩瓦解します。OSSを活用したクラウドサービスを用いることで、ごく少人数で基幹システムを構築できる時代になったからです。そんなOSSプラットフォーム「XEAD[zi:d]」を解説します。また、この激動期を生き残るために技術者が身につけるべきスキルは何かをディスカッションしましょう。

場 所 VOYAGE GROUP パンゲア
    渋谷区神泉町8-16渋谷ファーストプレイス8F
日 時 2012年6月22日(金) 19:30-21:00
参加料 無料
定 員 50名(所属会社明記で私宛にメールください)
懇親会 同会場にてセミナー後にディスカッションしなが
    ら行います。500円程度の実費要。~22:30

本ブログでの関連記事:
VPSでクラウド基幹システムを作ってみた
少人数開発と「能力プール」

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コメント

おひとりさま万歳いい時代です。

投稿: ret315 | 2012.06.06 20:01

5年ほど前ERP導入をしようとして失敗した件をメールした事がある者です。

XEADは、あの時点ではまだ単なるモデリングツールでした。
まだ、サンプルのシステムも生産管理ができていない段階だったと思います。

販売管理のモデルの完成度の高さにビックリして、いつかは実装されるだろうとは思っていました。
それが、まさかこんなミラクルな方法で実装されるとは思いもしませんでした。
今では、本格的なDBMSを使用して、クラウドで動作しているのですよね!!!

実は関西IT勉強宴会に誘われているのですが、二の足を踏んでいる状態です。
踏ん切りがついて、近いうちにお会いできればと思います。

よろしくお願い致します。

投稿: 菅原 満 | 2012.06.07 22:26

菅原さま

次の関西IT勉強宴会では私が語る予定なので、ぜひご参加くださいませ~(^^)

投稿: わたなべ | 2012.06.08 09:09

セミナー参加させていただきました!
大変、勉強になりました。機会があれば、またぜひ参加したいです。
残念ながら懇親会には参加できなかったので、少し思ったことを書かせてもらいます。

①他システムと連携が必要な部分
複数のシステムと連携が必要なとき、そこが自システムの想定と違っていたり、それぞれの違いを吸収する必要があったりしますが、XEADではどう考えますか?それとも、そのような部分は業務システムには含めませんか?

②ModelerとDriverの関係
ModelerとDriverは行き来する関係ですか?それとも、主要なOSSライブラリが揃ってしまえば、Modelerは不要だったりしますか?(基本的な質問かもしれません。。)
将来的にはModelerとDriverは一本化されるのが理想だったりするんでしょうかね。

③金融業向けモデルライブラリー
以前、ブログで「金融業向けモデルライブラリーの整備を進めている」という記事があったと思いますが、何か進展はありますか?中断している場合、ネックになっていることがあれば教えていただきたいです?

以上です。
セミナー、お疲れ様でしたー

投稿: 横田 | 2012.06.23 09:17

横田さま

ぜひ次回は飲みましょうね~(^^)

①他システムと連携が必要な部分
連係がDBを介してというのであれば、問題はないと思います。セミナーでも説明したように、XEAD Driverは複数DB(今はDerby,MySQL,PostgreSQLの3種類ですが)を扱えますし、「あちらの事情」をスクリプトで書き込んでおくこともできます。まあそれでも、ケースバイケースではあるでしょうね。

②ModelerとDriverの関係
XEAD Modelerで記述したシステム定義から、XEAD Editor(XEAD Driver付属の仕様書エディタ)でテーブル定義や機能定義を取り込むことはできます。逆方向の取り込みはできません。Modelerは基本設計情報のエディタで、Editorは仕様書エディタなので、両者が統合されるということにはならないでしょう。役割が違いますからね。

③金融業向けモデルライブラリー
一度やろうとして勉強してみたことがあるのですが、頓挫しています。原因はやはり、私の経験が少ないためです(1度だけです)。とりあえず、自分の得意な分野についてのライブラリー拡充に自分は邁進したいと考えています。どなたかがやってみたいと考えるのであれば、ぜひお手伝いしたいと思います。

投稿: わたなべ | 2012.06.24 10:28

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