かすれたマーカーを使わされる拷問
「パターンワーキンググループ2005年度総会」で講演させていただいた。昼間の話も興味深かったが、懇親会も楽しかった。羽生田さんや児玉さんをはじめとして、多くの初めて会う方々と楽しく飲めた。関係者の方々に心からお礼を述べたい。
失敗したのは、用意されたホワイトボードのマーカーが古くてかすれていた点だ。講演では必ず新品のマーカーを用意するように事前に伝えることにしているのだが、今回は伝え忘れていたので筆者のミスである。
そもそも最初はホワイトボードもなかったのであわてて依頼して、講演が始まると同時にようやく持ち込まれたのでホっとしたのもつかの間、マーカーがかすれていた。そのときの筆者のガッカリ感はなかなか想像してもらえないと思う。マーカーのすばやい動きにインクの滲出が追随しないというのは(おおげさな言い方だ)、筆者にとって致命的だ。発色も重要で、黒はあくまで黒く、赤はあくまで赤くあるべきで、不均一感があってはいけない。一時はカバンに新品の「マイマーカー」を大量に入れていたくらいだ。
なぜそれほどにマーカーの鮮度にこだわるかというと、前回書いたように、データモデルや業務フローに限らず、さまざまな「美しい図解」を生み出すことが筆者の悦楽でもあるからだ。筆者にとってホワイトボードに描くというのは、ホワイトボードに自分の「絵画作品」を完成させることと同義であって、その創作の喜びを奪われるのは悲しい。「かすれたマーカーでもなんとかするのがプロだろう」と言われてもこればかりはどうしようもなくて、「弘法でないからマーカーを選ぶんですぅ」と弱々しく言い訳するしかない。マーカーがかすれていたゆえに問題を起こして上司とあやまりに行ったこともある。
それはあるお客さんとの最初のモデリングセッションでのことだった。ホワイトボードにはマーカーが10本くらい載っていてよしよしと思ったのだが、そのどれもがかすれているか、50センチメートル以上書くとかすれるようなものばかりだった。思考がかすれるような不快感を伴うため、かすれた線をひくのが絶対イヤだったので、30センチ書くたびにマーカーを取り替えたのだが、そのうちに黒が全部かすれてしまったので、黒の線に緑や赤の線を継ぎ足すなどして最善をつくした。でも、書いては消しを繰り返すのが筆者のスタイルなので、さすがにどれもこれもかすれてきて、書くスピードが遅くなった(ゆっくり書けばかすれないからだ)。それでもだんだんかすれてきて、イライラがつのっていった。最後には完全に頭に来て、かすれて使えないマーカーに当たったらそれを力いっぱい床に放り投げていた(なんとか使えるものだけをとっかえひっかえ使うためだ)。
一部始終を見ていたお客さんたちはあっけにとられたようだ。事務所に帰ったらさっそく営業担当者と上司に呼び出された。「お客さんからクレームが入った。態度が悪かったそうだな」ああ、違いない。態度が悪かった。筆者はかすれたマーカーに対して非常に悪い態度をとった。でもそれはお客さんに対してではなくて、かすれたマーカーに対するものだったのだけれど、そんな言い訳は通用しない。けっきょく、翌日に上司といっしょに謝りに行った。恥ずかしい話だ。
システム設計のプロとしてモデルの的確さで勝負すればいいだけなのに、そんなレベルで右往左往している自分は情けない。しかし、どうも自分のモデリングスタイルは「描かれつつあるモデルや手書き文字のグラフィックな心地よさ」からポジティブフィードバックを受けながら進行するものらしくて、「見た目の心地よさ」や、浮かんだイメージを一瞬でビジュアル化するノリと切り離せない。データモデリングなんかはただでさえ理屈っぽい課題なので、絵画として右脳を刺激してバランスをとるためなのかもしれないなどとも考えるが、要するに筆者のわがままゆえなのだろう。
わがままであっても、まあそれくらいは勘弁してほしい。「ベンツでなきゃ行かない」とか「アルマーニでなきゃ着ない」と言ってるわけではない。「100円くらいで買える新品のマーカーでないとあまり書きたくない...なるべくなら」という、非常につつましくも気弱なお願いであって...ああそれにしても、なんてチンケで男らしくない話だろう。
付記:そのとき社内には新品がなくて、けっきょくすべてが完全に使えなくなってから、たまらず自分で文房具屋へ走ったのであった(「買って」と言えない気弱なヤツ(T_T))。
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コメント
いつも拝見し大変参考にさせてもらってます。
私の会社のマーカーもインク切れのものがそのままになっていて誰も補充してくれる気の利いた人がいません。(泣)
やはりあれはストレスの元ですよね。(見ている方にとっても。)
私もマイマーカーを買おうかななんて思ってます。補充式で補充が簡単なものがいいかなと考えてます。
最近ではチョークレスボードなんてのも出ましたが白一色しか使えないのが難点ですね。
投稿: hama | 2005.06.22 18:24
渡辺幸三さんの面白い一面を見たようで、
楽しく?読ませていただきました。
以前、ホワイトボードに
マジックが置いてあり、大変な事になったことを
思い出しました。
投稿: MOMO | 2021.02.09 20:28