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2018.08.02

システム開発者の給料が安すぎる理由

 「現行システムの仕様」ではなく、「ユーザとの対話」にもとづくデータモデリングを核にして仕様策定を進めるべきだ。現行システムの仕様は、出来上がったデータモデルを微調整するための素材でしかない――そのように昔から主張しているわけだが、この1か月間で、立場の異なる3人の技術者から次のように反論された。

そのように設計できるのであれば、たしかに理想的でしょう。とはいえ、それをやれる人材が少ないという現実があります。それゆえ、現行仕様にもとづくUIデザインを先行させ、そこからDB構造を組み立てるための設計手順や教育体制を整備しておくことが肝要と考えます。

 もっともらしく聞こえるが、まったく賛成できない。やるべきことをやれる者が少ないからといって、やれないことを前提にして高度専門職としての仕事の進め方や育成方針を決めてはいけない。そんな姿勢からは、現行システムのDB構造をなぞることしかできない「コピペ作業者」しか生まれない。「やるべきことをやれないことを前提として教育されたパイロット」が操縦する飛行機には乗りたくない。

 業務システムの設計者に求められているのは、現行の帳票だのフォームだのエクセルシートあたりの見かけとは無関係なデータ処理活動の本質を捉え、その本質に沿う合理的・革新的なDB構造を創案することだ。

 「いや、ユーザは合理的・革新的なDB構造など求めてはいない。彼らが欲しいものは具体的な帳票でありフォームである」といった反論があるかもしれない。しかしそれは「しっかりした基礎が欲しいなどと施主は言わない。だから基礎よりも上モノの設計に注力すべきである」と言うようなものだ。建物の基礎とかシステムのDB構造といった問題は、専門性の内側に置かれるもので、基本的に素人には不可視な問題である。顧客がそこらへんをとやかく言わないのは当たり前だし、だからこそしっかりした基礎(DB構造)を構想する責任が専門家にはある。

 にもかかわらず、なぜ開発企業は「やるべきことをやれないことを前提として」などと、腰の引けたことを語るのか。この問題に関して、興味深いデータがある。IPAの委託研究「日本のソフトウエア技術者の生産性及び処遇の向上効果」では、日本のソフトウエア技術者の生産性、給与レベル、仕事への満足度の低さが示されている。調査対象が「ERPソフト技術者、組込みソフト技術者、その他のソフト技術者」を合わせた集団という雑さが気になるが、一般的な傾向は示されていると見ていいだろう。

 たとえば給与を時給換算すると、アメリカとドイツが6,000円、フランス4,000円、日本3,500円、中国3,000円。調査は4年前なので今では日本が最下位かもしれない。また、法定労働時間の週40時間を超えない技術者は、ドイツでは91.7%、フランスで76.4%、アメリカで43.3%、中国で8.2%、日本ではわずか4.3%にとどまる。仕事への満足感も、日本は他と比べて突出して低い。ようするに「安月給で面白くないうえに残業ばかりの3K仕事」と当事者たちに思われている。そんな職場に「やるべきことをやれる人材」が集まるわけがない。

 業務システム開発の分野について言えば、この処遇の悪さにはタチの悪い背景がある。何度か述べているように、的確に設計したり実装合理化ツールを使えば、開発工数が激減するだけでなく、他のベンダーやユーザ企業自身によってそのシステムを保守できてしまう。どんなに現場が辛かろうが、「現行システムのコピペ設計」にもとづいて人海戦術でJavaあたりでゴリゴリとコーディングしたほうが、開発会社としては保守を含めて着実に稼げる。だから、待遇を良くして有能な人材が来てもらっては困るのである。例のExcelやWordで仕様書を書くといった稚拙なやり方も、「やるべきことをやれる人材をウンザリさせて逃げ出してもらうための仕掛け」としては有効なのかもしれない。

 しかし、そんな嘆かわしい状況も変わろうとしている。前回記事で述べたように、政府調達において「設計スキルの実技審査」が始まるからだ。この動きは民間にも波及すると考えられるので、ベンダー各社は他社に先駆けて準備しておいたほうがいい。まずは有能な技術者を社内要員として確保するために、処遇方針や育成計画を刷新しよう。そしてなによりも、技術で稼ぐ会社として「良い設計をするほど儲かる」という当たり前の体制を敷こう。いまさら感はあるが、この課題に対処しない限りシステム開発の現場は3Kであり続けるし、そもそも会社の存続が危うい。

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