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2018.03.15

顧客も業者によって値踏みされる

 システム開発業者のスキルはアテにならないので、彼らの実力を事前にオーディション(実技審査)すべきである。案件に関するわずかな手がかりを与えて、その場で設計・実装させてみる。ダンサーや俳優は「所属事務所の規模や知名度」ではなく、オーディションを通じて仕事を獲得する。開発業者の選定もそのようであるべきで、そうでないと彼らは自らのスキルを磨こうとしないだろう。なぜなら、彼らには的確にシステム設計すべき理由がないから。――そのように説明してきた。

 当たり前のことなのだが、オーディションにおいては受注側だけでなく、発注側も値踏みされる。案件を通じてユーザ企業と開発業者が協働するというのは、幸福な結婚生活のようなものだ。他者(他社)と良好で安定した社会関係を築いていける相手を見極めなければいけない。そのために、ユーザ企業は業者を値踏みし、業者もユーザ企業を値踏みする。

■業者に見放された会社

 もう20年近くも昔の前職での話だが、ある中堅メーカーに営業担当と二人で提案に行って、席を蹴るように帰ったことがある。システム部門の部課長が対応したのだが、その二人が揃いも揃ってこちらを馬鹿にしたような態度をとり続けるのである。うんざりしつつも私は、その二人とやりとりしながらホワイトボードに業務フローとデータモデルを丁寧に描き広げた。

 ところがそれらの図面についても「まあ、こんなポンチ絵なんか誰でも描けますよね」などと鼻で笑うのである。私はほとほとイヤになって、「そうですか。お目汚しでしたね。では今回は縁がなかったということで」と言いながら、美しい板書を一瞬で消してしまった。そのときの彼らの慌てた様子を思い出す。「あーっ、消さなくてもいいじゃないですか!」

 後で聞いた話では、彼らはいろいろな業者からの提案を集めて企画の素材にしているようだった。なんともセコい話だが、何よりも問題だったのは彼らの業者を見下す態度だった。けっきょくそれが業界内で「あそこは変だ」と噂になって、関わろうとする業者がいなくなった。その後その案件がどうなったかは知らない。

 そのような極端な例は少ないだろうが、「金を出すほうがエラい」と勘違いしている手合いは少なくない。お金とサービスは等価交換されるのだから、売り手と買い手は対等である。それさえ理解できない子供っぽい相手とつきあってもロクなことはない。まあ、ここらへんはオーディション以前の問題ではある。

■業務要件をデータモデルの形で理解できるか

 では、オーディションの場で業者によって値踏みされるのは、顧客のどんな側面なのだろう。「自分たちの業務要件をデータモデルの形で理解できるかどうか」である。それさえ出来ない会社と付き合ってはいけない。

 このように主張すると、「顧客はデータモデルのように専門的な図面を読み解けない」と反論されそうだが、これは意外と障壁にならない。注文住宅のデザインを検討するときに施主が建築図面を示されて「こんな専門的な図面、わかりません」と拒否することはまずないだろう。なにしろ自分たちが住むはずの家のデザインなので、多少専門的であっても、そこに自分たちの要望が反映されているかどうかを真剣に読み取ろうとするものだ。

 データモデルにもそういうところがある。当然ながら顧客はデータモデルを描けない。しかし、描かれたデータモデルに自分たちの業務要件が的確に反映されているかどうかはわかる。楽器を演奏出来なくても、奏でられた曲が自分好みであるかどうかはわかるようなものだ。ただしこれには、上手くまとめられたデータモデルであればという前提がある。ボサノバなのか浪花節なのかもわからないくらい演奏が下手ではどうしようもない。

 私の経験から言えば、少なくともデータモデルが何であるかを理解できなかった顧客はいなかった。彼らにとってデータモデルは「自分たちの扱っている情報の形」が示された「わかりやすいイラスト」であるからだ。業者から見放された上述した二人も、私の描いたデータモデルを(データモデルというものを初めて見たにもかかわらず)的確に理解してくれていたことを思い出す。

■自らの業務要件を把握しているか

 そういうわけなので、データモデルを通じて値踏みされるべきは発注側の「図面の理解力」などではない。そもそも「自分たちの業務要件を把握しているかどうか」である。データモデルを介して業務要件について開発者と実質的なやり取りができるようであれば、彼らが自分たちの課題を理解していると判定できる。この意味でデータモデリングは、顧客の本気度を知るための有効な手段である。

 なおこれは、顧客側の開発責任者がすべての業務要件に通じているべきという話ではない。データモデリングにおいて、たとえば「○と□の組み合わせに対して△の値が決まるということでよろしいですか?」という技術者の問いに対して、「業務担当者に確認しないと厳密にはわかりませんが、とりあえずその前提で描き広げてください」といった答が返ってくるかもしれない。このように、疑問を明らかにするための手段がわかっているようであればかまわない。つまり、すべての疑問に対する答を知っているかどうかではなく、それを解決するための手段があるかどうかが重要である。

 ようするに、顧客といっしょにデータモデリングすることに遠慮は要らないどころか、それをすべきということだ。にもかかわらずオーディションでデータモデリングしないとしたら、「顧客はデータモデルのように専門的な図面を読み解けない」といったもっともらしい配慮ゆえではなく、たんにまともにDB設計できないないゆえと考えていい。自力でDB設計もできない開発業者は「自力でチューニング出来ないギタリスト」のようなものだ。彼らを足切りするために、「90分のオーディションでは、DB設計からアプリの実装までをやってもらいます」と伝えておこう。

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