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2018.03.22

内製の前に「自社保守」を目指そう

 業務システムの「内製化」を課題として挙げる情報システム部門は少なくない。管理者やユーザからの要望を取り入れてシステムを素早くかつ安価に改善できるようでないと、変化し続ける環境に追随できないからだ。業務プロセスの効率化のために存在するはずの現行システムが経営の足を引っ張っているなんて悪い冗談のようだが、そのような事例は大企業を含めて少なくない。

 業務システムの内製化が現時点で達成出来ていないのであれば、情シスとしてまず目指すべきは「自社保守」である。すなわち、初期段階の設計・開発は業者に任せながらも、保守フェーズを自力で賄う態勢が実現されなければならない。理由は単純で、情シスの専門性と業者の専門性が似て非なるものだからだ。もう少し具体的に言うと、システム設計の専門性が情シス内では涵養されにくいからだ。

 情シスの役割は事業活動に資するシステム環境を企画・開発・維持することである。考えたらわかるが、これは「多様なシステム開発経験」をもたらさない。同じシステムを延々と運用して、5~10年に1度くらいの頻度で刷新する。生涯で多くて10基程度のシステム更改しか経験できない。その程度では「業務システム開発のプロ」は名乗れない。これは良し悪しの問題ではなく、情シスに所属するというのはそういうことだ。

 いっぽう、システム開発の専業会社に所属する技術者が生涯に関わるシステムは、ふつうに100基を超える。彼らに求められるのは、多業種・多業態向けの業務知識を実践的な形で蓄えることだ。情シス所属の技術者には、自社の事業や現行システムのあり方に精通することが求められることとは対照的である。

 ユーザ企業1社が擁する事業はせいぜい数個だろうから、内製において多業種・多業態の業務知識は不要と思われるかもしれないが、そうはいかない。効果的なシステム仕様は、他業種や他業態のプラクティスから転用されることが少なくないからだ。たとえば生産管理システムにおける部品表、所要量計画、工程負荷計画の考え方やモデリングパターンは、製造業以外にも広く応用できる。業種・業態を超えて利用できる有用なパターンは他にもいろいろあって、そういう知識は開発専業会社に所属する技術者でないと身につかない。それがなければアジャイルでやろうがドメイン駆動でやろうが、効果的なシステム仕様は生み出せない。

 そういうわけなので、少なくともDB設計については開発専業会社の協力を得たほうがいい。もちろん、現行システムのDB設計がじゅうぶんに的確であれば、その上で動作するアプリを作り変えるだけなので、最初から内製すればよい。しかしそのような恵まれたDBを保有している事例が限られるだけに、開発専業会社の関与がどうしても求められる。

 ただし、これまで何度も述べたように、開発専業会社だからといってじゅうぶんなスキルがあるとは限らない。とくに一次請けで稼ぐ大手SIerは、ほとんどの要員をプロジェクト管理者に仕立て上げ、開発実務全般を国内外の下請業者に委託するようになった。彼ら自身で設計できないので、下請業者の設計スキルさえ評価できない。また、社内要員だけで開発している業者に所属していても、経歴が長いわりに設計スキルがおぼつかない技術者は少なくない。プログラミングやテストだけでは体系的な業務知識は身につかないし、DB設計のような仕事が面倒で面白みのないものに思えてくるからだ。

 DB設計のスキルが足りないゆえに、多くの業者が現行のDB構造を温存しようとする。「データは御社にとっての資産です。とくにDB構造は御社の事業のあり方を反映しているので、簡単に変更すべきではありません」などと彼らは強弁するかもしれないが、稚拙なDB構造の中に溜まったデータなど「負債」でしかない。じっさい、DB構造のマズさはシステムの保守性の悪さや動作不安定として現れ、経営の足をひっぱり続ける。システム刷新の動機としてそこらへんの問題が含まれるのであれば、現行のDB構造を温存するという選択肢はまずないと考えるべきだ。

 だから、必要と判断すればDB構造を全面刷新して、現行DBからのデータ移行までやってしまえる腕のいい業者(開発者)を見つけよう。そして、協業の過程で彼らのスキルを貪欲に学び取ろう。運用・保守フェーズを社内要員で賄うためだ。難しい改修については業者の協力が要るかもしれないが、それ以外はすべて自分たちでやる。こうして「自社保守」を達成したら、ようやく「内製」の理想を語れる段階に至る。最終的に内製を実現した後も、ときどきは腕のいい業者と協業したほうがいい。彼らの「業務システム開発のプロ」としての経験と知識を取り込むためだ。

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