« データとして登録されるビジネスルール | トップページ | 主キーはインデックスではない »

2014.08.18

ボトルネックは「業務系スキル」

 私は業務システムというものが好きだ。売上そのものを生み出すしくみではないので派手さはないが、経営効率を高めるための縁の下の力持ちのような奥ゆかしさがある。そして、日本企業の特質である「顧客のわがままに柔軟に応える姿勢」を貫くための鍵が、他でもない業務システムである。効果的な業務システムをいかに効率的に設計・実装するか。それを考えたり実践することが楽しくてしょうがない。

 この分野にも固有の専門性がある。まず必要なスキルは、業務連係やデータベースの設計技術、そしてシステム構成と統合された会計知識だ。適性としては、論理的な思考力や人並み以上の言語能力が求められる。これらの技能を合わせて「業務系スキル」と呼んでおくが、その重要さは実装手段が変わっても揺るがない。

 ところが、開発を専業とする組織における業務系スキルの空洞化が著しい。じっさい今になって営業担当者があわてている。長い不況を抜けてやっと業務システムの開発案件が増えてきたのに、まともに上流工程をまかせられる人材がいない。小さく切り出されたモジュールを扱える人材がいても、システム全体を包括的にデザインできる人材がいない。

 なぜこんなことになってしまったのか。思い当たる理由がいくつかある。

 まず、ある時期に業務システム開発のスタイルが「猫も杓子もERPパッケージ」になったためだ。その死屍累々たる結果からかつてのような熱も冷めているが、その頃に開発者がやっていたのは「ユーザから言われたとおりにアドオンを作ること」だった。そのため、現場で業務系スキルが継承される必要がなかった。それが10年も続けば、全体をスクラッチで構想するためのスキルが空洞化するのは当然だった。

 また、スクラッチ案件があったとしても、開発実務をアウトソースするやり方が一般化したことも影響が大きかった。とにかく開発工数を大きくして、仕事をピラミッド状に割り振ることで稼働率とマージンを確保できる。その安直な旨みを一度知ったらなかなかやめられない。技術者としての適性に恵まれた新人さえ、数年でプロジェクトマネージャーという名の外注管理屋にさせられたりした。気がつけば、生産性向上の動機を失っただけでなく、じぶんたちで設計も実装もできない手配師集団になってしまった。

 他に、Webアプリとして業務システムを開発することが一般的になったことも関係している。Webアプリの実装技術は変化が激しく、何年かに1度の割合で全面改定されたようになる。そのために技術者は、実装スキルをキャッチアップすることで忙殺されてしまう。本来であれば、3年も実装経験を積めば「実装についてはこれでじゅうぶん」と思えていいはずなのだが、Webアプリはそれを許さない。とうぜん、地味な業務系スキルの習得は後回しにされ、プログラミングだけに詳しい要員として30代を迎えてしまう。

 なお、「開発者側に業務系スキルが足りなくても、ユーザ企業側の要員をドメインエキスパートとして頼ればいい」と考える向きがあるかもしれないが、とんでもない勘違いだ。ユーザ企業がシステムを刷新する機会は少ない。彼らは自分たちのユーザ要件について知悉しているかもしれないが、それにもとづいて的確なDB構造を構想できるわけではない。それゆえに、開発者自身がドメインエキスパートでなければ開発は先に進まない。ユーザ企業側の要員は、開発者の豊かな発想に方向性を与える程度の役割しか果たさない。けっきょくのところ、開発者の「ドメインエキスパートとしてのスキル」こそが開発のボトルネックとなる。

 言い換えると、体系化された業務系スキルというものは、本来は開発専業組織によってしか維持されない。なぜなら彼らだけが、さまざまな案件を通じて業務系スキルを更新・深化し続けられる立場にあるからだ。もし業務系スキルを供給するという役割を果たせなくなれば、彼ら自身だけでなく社会にとっても打撃である。

 では、個々の技術者はどうしたらいいのか。どう行動すべきかはそれぞれの置かれた立場で違うだろうが、「認識」についてはっきり言えることがある。業務系スキルを「古株がつるんで語っているなにやら面白味のないたわごと」と捉えていては損をする。ある程度の実装経験を積んだ技術者にとってそれは、労働市場で自らを差別化するための武器になる。それに気づくタイミングは早ければ早いほどいい。気づいてしまえば、どう行動すべきかはおのずと見えてくるだろう。

|

« データとして登録されるビジネスルール | トップページ | 主キーはインデックスではない »

コメント

> 業務連係やデータベースの設計技術、そしてシステム構成と統合された会計知識

これらを身につける為に、どのようなことを仕事で心がければよいでしょうか?
自分は客先で業務システムを保守開発しておりますが、
部分部分の開発が多く、体系だった業務知識がなかなか身につかず、苦労しており、
示唆をいただけると助かります。

又、もしお勧めの書籍がありましたらご教示ください。
私は下記2冊を愛読していますが、類書を熱望しております。

・グラス片手にデータベース設計 販売管理システム編
・グラス片手にデータベース設計 会計システム編

投稿: 客先常駐SE | 2014.08.26 22:10

拙書のいずれかをお勧めします(^^; じっさい、業務知識と統合されたシステム設計スキルを学ぶための書籍としては、梅田さんと私の書いたものくらいしかないんですよね。

あと、常駐で保守しているシステムの理解にもとづいて、XEAD Modeler等のフリーソフトを使ってモデルを整理してみるのも勉強になると思います。人材が払底しているので、システム設計をやってみたいと関係者にアピールしておくことも大事ですね。

投稿: わたなべ | 2014.08.27 09:32

遅くなりましたがご回答ありがとございます。
早速、XEAD Modelerとレファレンスモデルをダウンロードさせていただき、自分の担当している顧客業務と対比しながら、動かしています。
こんな良質のアプリ、ノウハウがオープンソースで公開されてるとは本当にありがたいです。自社の若手にも紹介します!

投稿: 客先常駐SE | 2014.09.01 21:51

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ボトルネックは「業務系スキル」:

« データとして登録されるビジネスルール | トップページ | 主キーはインデックスではない »