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2014.06.14

システム化の恩恵を中小企業へ

 中小企業のシステム化は遅れている。事業規模が小さいからといって、彼らが扱うデータが単純少量というわけではない。Excelでは管理しきれない複雑大量のデータが日常的に扱われている。にもかかわらずシステム化が進んでいないのは、IT予算が少なすぎてSIerから敬遠されるからだ。IT予算の相場は売上額の1~3%と言われているから、売上10億以下の中小企業はSIの対象とはみなされにくいという現実がある。

 なお、「中小企業」の定義は業種によって異なる。製造業を例にすると「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」が中小企業である。製造業における中小企業比率は、売上高で34.1%、従業員数で59.8%、企業数ではなんと99.5%を占めている(平成10年の統計)。ようするに日本の企業の圧倒的多数が中小企業である。

 彼らが業務データを管理するために、出来合いのパッケージ・システムを使うことがあるが、その種のソフトウエアはユーザ企業の特性に合わせてカスタマイズできないことが多い(可能でも費用がかかりすぎる)。SIerに依頼して独自システムを導入している企業もあるにはあるが、多くの場合、仕様を凍結したまま使う羽目になっている。いったん出来上がったシステムを改善し続けるにはやはり費用がかかりすぎるからだ。

 けっきょくどんなやり方にせよ、使いにくさを忍びつつなんとか仕事をまわしているというのが、中小企業における業務システムの実状である。システム化予算が潤沢な大企業以外の会社(全業種中で99.7%の会社)のほとんどがそうであるといっていい(ただし大企業のシステムがどれも使いやすいということではない)。

 この状況を打開する鍵が、超高速開発ツールのような合理化技術である。何度か書いたように、この種の技術の本当のインパクトは、超少人数開発(おひとりさま開発、セル生産)を可能にした点にある。つまりそれらは、フリーランスや小規模な開発会社(これらをまとめて「工務店」と呼んでおく)が効率的に稼ぐための武器であって、SIerのように人海戦術を旨とする組織には向かない。SIerが下手に取り入れれば、稼働率が下がって利益を減らすだけだ。

 そのようなツールを用いることで、これまでSIerから敬遠されてきた中小企業が「工務店」の潜在顧客になる。なお、中小企業のシステム化予算が少ないからといって、案件から得られる利益が少ないとは限らない。ツール上で動作する業種別システムライブラリを活用した超少人数開発に徹することで、「技術者1人当たりの利益」でSIerを凌駕するかもしれない。少なくともSIerの下請けでやるよりは稼げそうだし、アジャイル方式で進められるので顧客満足も向上するだろう。けっきょく、工務店にとって採算の合う予算をとれる事業所が、システム化の恩恵を受ける企業規模の下限である。超高速開発ツールやクラウドといった技術革新が、その下限を引き下げる。

 言うまでもないが、金融や医療といったクリティカルな事業を支えるシステムについては、従来のように大手SIerによって扱われたらいい。そういう特殊なシステムについては、内製でやるよりもSIerにまかせたほうが効果が見込めるだろう。また、ツールでは実現できない細かいディテールにこだわりたい案件についても、彼らに開発してもらえばいい。

 それ以外の案件は、地場の工務店によってまかなわれたらいい。そして、両者の中間に位置する案件については、システム部門を擁する企業であれば内製に向かうだろうし、システム担当を置けない企業ならば、地元で実績を積んだ工務店に引き継がれてゆくような気がする。いっぽうのSIerはこれまでどおり人海戦術方式を貫けばよい。彼らはこれからも重要な役割を果たし続けるだろう。

 そのようにSIerと工務店の棲み分けが進むことで、中小企業を含めた多くの事業所がシステム化の恩恵を受けられるようになる。つまり、開発作業を合理化する技術革新は、システム開発事業のターゲットを広げるための鍵である。その種の技術革新はSIerには余計なものかもしれないが、経済社会はそれを必要としている。

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