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2014.03.02

良単価・準委任で契約するためにできること

 システム開発はベンダーとの請負契約(成果物基準)で進められることが多いが、準委任契約を結べるのであれば、ベンダーもクライアントもプロジェクトからより多くの果実を得られる。そんな理想的な契約を結ぶことは可能なのだろうか。

 なお、「準委任契約」とは、成果基準ではなく「提供した時間」にもとづいて請求額が決まる契約形態のことだ。ちなみに「準委任契約」の"準"に大した意味はない。"準"のつかない「委任契約」は、弁護士等の法律関係の契約を指す用語で、ようするに「法律関係以外の委任契約」が「"準"委任契約」である。

 IPAの尽力もあって、上流工程(要件定義~基本設計)を準委任契約で請け負うことは、今では広くなされるようになった。なにしろ、作業を始める前に成果物がどんなものであるかを明確にできない。せいぜい納品物の「一覧」を決めることしかできない。だから、上流工程は準委任契約と相性がいい。

 問題は下流工程(詳細設計~実装~テスト)である。上流工程で基本設計書が出来上がっているのだから、実装されるべきシステムの姿は事前に明確になっているはずだ。請負で契約して何も問題なさそうだが、これがなかなか難しい。

 拙作のモデルライブラリ「CONCEPTWARE/生産管理」をひとりで実装したときもそうだったのだが、実装の過程で基本設計レベルの見直しがどんどん入った。もちろん私の設計が至らなかったゆえではあるのだが、実装しながら思いついたアイデアを反映させたゆえでもある。実装して動かしてみると、さまざまな改善案がデータモデル、機能モデル、業務モデルのレベルで沸いてくる。もちろんそれらのアイデアの多くは、基本設計をしっかりまとめたうえでさらにシステムを実装してみなければ思いつけないものだった。

 ここらへんの特性を無視して、実装工程を「成果物基準」で契約するとどうなるか。システムの使い勝手を良くするアイデアを開発者が思いついたとしても、それが基本設計を変更するようなものであれば捨てざるを得ない。下手にそのアイデアを反映させたら、基本設計の修正を含めて想定以上の工数がかかってしまうからだ。自分の首を絞めることになる。

 クライアントにとっても同様の問題が生じる。基本設計を逸脱するような仕様変更を思いついても、それを下手に求めると追加料金を請求されてしまう。基本設計を基準とした工数で開発作業を進めているのだから当然だ。とはいえベンダーは、クライアントのそのような「わがまま」をある程度は受け入れるために、見積工数を多めに上積みしておくだろう。

 結果的に、ベンダーにとってもクライアントにとっても、コスト増や納期遅延のわりに不全感に満ちたシステムが出来上がる。上流工程の成果物が双方の足をひっぱり続けた結果に他ならない。プロジェクトの創造性をフリーズさせ、お互いを疑心暗鬼にさせる呪いのようなものだ。

 そういうわけなので、下流工程を含めて開発の全工程を準委任で契約したいところなのだが、実際問題として不可能に近い。準委任というからには、動くシステムという成果物が出来上がっていなくてもクライアントとして費用を払わねばならない。そんな不利な契約を認める会社がどこにあるだろう。また、ベンダーとしても、膨大な工数の多くを外注にまわすなどの工夫が有効であることから、請負として契約しておきたい動機がある。

 では、システム開発を準委任契約で進めることは不可能なのか。じつは、準委任かつ良好な単価で契約するための良い方法がある。「モデルシステム」を起点にして、開発プロジェクトをスタートすればよい。

 「モデルシステム」とは、業務マニュアルやデータモデルといった基本設計情報が添付されている「実際に動くシステム」のことをいう。これをクライアントがダウンロードして、実際に動かしながら適合度を調べる。開発の起点として妥当と判断されたなら、クライアントはそのシステムの「作者」と準委任契約を結ぶ。そしてクライアントは基本的に「内製」の方針でモデルシステムをカスタマイズするし、「作者」はカスタマイズ方針や実際のカスタマイズ作業についてガイドする。

 準委任契約においては、受任者が「善良な管理者の注意をもって仕事を進める義務(善管注意義務)」を負うとされている(民法第644条)。モデルシステムが開発の起点として有用と判断できれば、善管注意義務の一定の担保になる。

 じっさいのところ、主任技術者のスキルによってシステムの出来がまるで違ってくるにも関わらず、どんな人物が起用されるかについてクライアントはこれまで関与できなかった。提案の場にやってくる技術者は当て馬ばかり。結果的に、開発プロジェクトは割の悪いギャンブルであり続けているし、技術者は没人格的な人月単価と多重下請構造のもとに喘いでいる。

 「起用される開発者の作品」をプロジェクトの起点とすることで、従来の開発手法につきまとうその種のリスクやコストを大幅に減らせる。「能力に応じた高めの単価設定でも引き合う」とクライアントも判断できるようになる。ようするに、準委任契約を結んでもいいと思ってもらえるようなスキルを「作品」を通じて示せたらいい。そのためのインフラを用意することが私の野望のひとつだったりする。

 そうなれば、キャリアパスの選択肢が増えて、技術者が自分を主体的にプロモートできるようになる。たとえば、若いうちはどこかのベンダーで開発実務の経験を積んで、その後に独立するとともに「オリジナル作品」を自作・公開して堅実に稼ぐ――そういった道を選べるようになる。スキルと個性に合わせて、技術者の稼ぎ方はもっと多様であっていい。そうならないのは、「自分の作品」として公開できるものがないために、技術者に「顔」がないせいでもある。

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