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2013.10.11

トレーサビリティを確保するための便法

 「仕様書で駆動されるOSS生産管理システム」の実案件への適用を進めているのだが、その過程でさまざまな気づきがある。前回の記事に続いてもうひとつ説明しよう。生産管理システムであってもロット管理は必須ではない――という話だ。

 どんなに作業を標準化したとしても、製造ロット(製造したまとまり)毎に品質特性は異なる。工程条件が微妙に異なるし、投入された資材品の品質特性も異なるからだ。ロット情報を管理することはメーカーの課題のひとつである。

 ところが、ロット管理をやろうと勢いづいて在庫までをロット毎に管理しようとすると、システムは想像以上に複雑化する。まずロット別の在庫を管理するのであれば、ロットマスター(品目ロット)とともに、ロット別の内訳(倉庫在庫明細)を保持しなければいけない(図1)。

131011_1図1.ロット管理型の在庫モデル

 在庫DBはシステムの背骨のような要素なので、これが複雑になればシステム内のさまざまな取引管理DBも複雑化する。たとえば、発注のモデルは図2のようになる。

131011_2図2.ロット管理型の発注モデル

 このDBを扱うパネルでは、在庫品についてロット№毎の取引数量を報告しなければいけない。ロット違いの在庫の場所を把握するためにはロケ(倉庫内の管理区画のようなもの)の管理も必要になる。そのようなオペレーションは、とくに従来それをやっていなかったメーカーにとってはギョッとするほど煩雑である。「ロット管理」と口で言うことは簡単だが、それを実践することは簡単ではない。

 とはいえメーカーは「ロットトレース」の問題を避けて通れない。すなわち、出荷した製品の特定ロットに問題が生じた場合に、同じロットの出荷先を手早く特定して対処しなければいけない。また、仕入れた資材の特定ロットに問題が見つかった場合にも、これを組み込んだ製品を特定してその出荷先に事の次第を伝える必要がある。その過程が確立されていないようでは製造者責任を果たせない。

 どうしたらいいのか。日々のオペレーションの煩雑化を避けながらもロットトレーサビリティを確保することはできないのか。

 便法がある。まず、ロット別の在庫の内訳を持たずに「倉庫在庫」だけで在庫管理する。ロットマスターも持たない(図3)。

131011_3図3.非ロット管理型の在庫モデル

 そうすると、発注のモデルは図4のようにシンプルになる。鍵になるのは入荷明細に置かれている「ロット№」だ。摘要欄の一種としてこれを置いておく。

131011_4図4.非ロット管理型の発注モデル

 こうしたうえで入荷実績報告において、取引の対象になったロット№をここに記録しておくのである。複数ロットが関わったのであれば、複数のロット№をそのまま書き込めばよい。製造実績報告や出荷実績報告でも同様に、同様の項目を用意しておいてロット№を記録する。これで、たとえばある製品の特定ロットに問題が生じたとしたら、出荷実績上でそのロット№をスキャンすれば出荷先の一覧が手に入る。在庫をロット管理しなくても、このような工夫でロットトレーサビリティは確保できるということだ。

 ただし、ロット№を記録するためのフィールドを持つといってもただの摘要欄なので、値を打ち間違える可能性がある。また正しく入力したとしても、ロットの影響範囲の分析におけるシャープさが損なわれることも避けられない。

 「それでもいい」という話なのだ。けっきょくこれは「ロット障害時の分析過程の手間や影響範囲の低減」と「日々のオペレーションのやりやすさ」とを勘案して決める問題である。そして、私がこのシステムを活用してほしいと願っているメーカーの多くは、前者よりも後者を重要視するほうが合理的と考える――そのことにやっと思い至った次第である。じっさい、ロット障害が年に数度しかないとすれば、ロットトレースをやりやすくするために日々のオペレーションを煩雑化するなど、逆効果以外のなにものでもない。

 「大は小を兼ねる」と言うが、「業務システムの複雑さは単純な業務をもカバーする」とは言えない。複雑な仕様に合わせるために、日々のオペレーションに奇妙な運用上のルールを組み込まざるを得ないからだ。また、システムの複雑さはそれだけで保守コストを引き上げるからだ。余計な複雑さは出来る限り排除されたほうがいい(これを徹底できないのが従来型パッケージシステムの弱点である)。

 件の生産管理システムについて補足すると、「為替換算が煩雑なので、売りも買いも国内取引に限る」という仕様にしていたのだが、それも私の独善であった。今や中小企業であろうとなかろうと、海外との売買は当然のようになされていると考えたほうがいい。それで、いったんはずした輸出入の要件を組み込み直すことにした。

 それもまたなんともマヌケな話ではあるのだが、幸運なことにロット別の在庫管理要件をはずしたおかげで、為替計算を組み込んでも心配したほどには複雑化しないだろう。そもそも仕様変更が圧倒的に容易な開発基盤を用いているため、作業が苦にならない。DBを作り変えることはとうぜん手間がかかるが、アプリについては仕様書を書き直すだけで動きが変わってくれる。結果的にバランスの良い仕様になりそうで、自分の不甲斐なさを嘆きつつも心楽しくカスタマイズ作業を進めている。

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