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2012.12.03

「丸投げ請負」から「内製支援」へ

 ジャスミンソフトの贄(にえ)氏によるブログ記事「日本のSIerは"フィックスドプライス"型契約から脱却できるか」が興味深い。ジャスミンソフトは注目の超高速開発ツール「Wagby」のメーカーである。立ち場が似ていることもあって、私としては書かれていることがいろいろ共感できる。

 業界の人間が集まると景気の悪い話ばかりだ。なにしろNTTデータのトップが「SIはもう終わり」と断言するほどである。しかしくどいようだが、SIビジネスは終わりっぽいが、業務システムそのものの必要性がなくなることはない。では何が起こっているのかというと、ユーザ企業の「丸投げ委託の削減」および「内製の強化」である。

 贄氏も書かれているが、丸投げ受託ビジネスは誰も幸せにしない。ベンダーにとっては黒字になりにくいし、顧客にとっては業務システムがブラックボックス化しやすい。これに代わって「内製支援」が、この業界が開拓すべきフロンティアである――贄氏はそう主張されている。そのとおりだと思う。

 では「内製支援」とはどのようなビジネスなのか。ユーザ企業に所属する担当者が、業務システムの設計・実装・保守・運用をこなせるようになる。それを支援するサービスである。「コンサルティング」というより「教育サービス」の意味合いが強い。

 もちろん、簡単な仕事ではない。まず、トレーナーはひととおりの作業に通じている必要がある。なぜなら、訓練を受ける要員自身がそのような技術者に成長することがゴールであって、トレーナーは「役割モデル」でもあるからだ。難しい部分は代行しつつ、文字通り「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」を実践する。ようするに「内製支援サービス」を担当する技術者は「人を育てられる多能工」である。

 しかも、そんな練達でさえ「丸腰」で臨むわけにはいかない。上述の記事が超高速開発ツールメーカーの社長さんによって書かれているのは示唆的だ。内製支援サービスは、基本的にそのようなツールとセットで提供されることになるだろう。なぜなら内製は、SIerのようにチームで和気藹々となされるものではなく、しばしば「おひとりさま」同然の体制でなされるものだからだ。そんな体制で高い生産性を打ち出すには、優れた設計・開発環境が欠かせない。

 さらに、そのツールで開発された「オープンパッケージ(*1)」がほしい。ユーザ企業が「おひとりさま開発」を開始するための踏み切り台となってくれるからだ。また、その開発を通じてベンダーの若手技術者が開発実務を経験できるし、成果を公開することで技術力をアピールできるという意義もある。かくして超高速開発ツールを使いこなすベンダーと、そうでないベンダーとの差は広がってゆく。

 今も昔も、日本のユーザ企業が業務システムを内製するには「人員が足りない」という現実がある。その不足を「かき集められた外部要員」によって補う手配屋の役回りを、これまではSIerが果たしてきた。ところが彼らの多くは手配屋として稼ぐ間に開発スキルが空洞化してしまった。なにしろコードが書けないだけでなく、データモデルのような基本図面さえ要件にしたがって書き起こせなかったりする。彼らにまかせては、外部要員を山ほど投入してもうまくはいかない。

 では、ユーザ企業が内製することはもはや無理なのか。道はある。人員の不足は「かき集められた外部要員」ではなく「まともなスキルとツール」で補完できる。そのための支援をITベンダーが提供すればよい。ようするに、ITベンダーが提供するサービスを「量からふつうの質」へ転換させたらいいだけの話だ。なんとささやかであろう。しつこいが「結婚相手はせめてお箸をきちんと持てる人がいい」と願うくらいにささやかである。


*1.オープンパッケージ:基本設計情報が添付されていて、かつカスタマイズしやすいオープンソースの業務システムパッケージのこと。これを起点にしてアジャイルに開発を進めるやり方を私は「おひとりさま開発」と呼んでいる。拙作の超高速開発ツールXEAD Driverには、すでに卸売業向け販売管理システムがオープンパッケージとしてバンドルされており、生産管理システム等も鋭意準備中である。

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コメント

システムの発注側が内製できる・すべきは、業務データ、業務ロジック、業務ロジックのテストケース、この3つの部分だと思います。

ユーザインタフェイス、システム間通信方式、トランザクション制御、並列処理、排他制御、パフォーマンスチューニング、セキュリティ、高可用性、移植可能性などなど、システム開発にはITが専門でないユーザ企業が自力でカバーするのは難しいのではないでしょうか。

また、システムの規模が大きい場合は、超高速開発ツールを使って業務仕様を固めるためのプロトタイプを作成するには有効だと思いますが、ユーザ企業がすでに持っている既存のITインフラ環境に合わせた本番稼働させるシステムを作るには、やはりSIerの力が不可欠だと思います。

投稿: czhong | 2013.01.11 10:40

確かに当面は、SIerでなければ扱えない問題は残るでしょうね。けれども、気の利いたインフラやプラットフォームを活用すれば、ユーザ企業自身で対処できる範囲はずいぶん広がります。いちいちベンダーにお伺いを立てなければ保守も自在にできない業務システムは、ベンダーによる囲い込みのためのツールでしかありません。ユーザ企業に依存させるのではなく、彼らがひとり立ちするために必要な教育やソフトウエアを提供する。そういう役割がベンダーには求められているし、そういった矛盾をはらむ役割を果たしたベンダーこそ、本当の意味で信頼されるのだと思いますね。

投稿: わたなべ | 2013.01.11 13:01

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