« 「データモデリングライブ@名古屋(11/24)」のお知らせ | トップページ | 「データモデリングライブ@名古屋」報告 »

2012.11.19

「恥ずかしさ」で設計品質を高める

 業務システムの基本設計情報ライブラリのひとつとして公開している「CONCEPTWARE/生産管理」を、4年ぶりに全面改訂してバージョン2.0.0とした。このモデルにもとづく実システムの開発をひとりで進めているのだが、実装環境であるXEAD Driverで想定されている機能パターンに仕様を合わせるなどの整理が必要だったためだ。

 また、今回の改定では「実務的」であることより「学びやすさ」を優先した。たとえば、仕入や売上をあえて国内取引に限定した。現代のメーカーが国内取引だけで完結する例は少ないのだが、通貨換算のこまごましたロジックが付加されることで、生産管理システムとしての本筋が見えにくくなる。とはいえ通貨マスターや換算レートマスターは残してあるので、実案件で利用する際には国外取引先とのやりとりに関してはカスタマイズ課題として扱えばいい、と判断した次第だ。

 このモデルを閲覧・編集するためには、XEAD Modelerという専用の設計支援ツールが要るのだが、この種の専用ツールを使うことの意義をあらためて思い知らされた。複雑膨大な体系でありながら、イケてる設計はいかにもイケて見えるいっぽうで、イケてない設計はアカラサマにイケてなく見える。今回も改定の過程で、自分の4年前の設計のイケてないところを見せつけられて冷や汗が出た。

 設計が「イケてる/イケてない」とは、「業務プロセスを効果的に制御する/しない」とか「開発コストの削減に貢献する/しない」くらいの意味で理解してほしいのだが、ここで大事なことは、多様な「イケてなさ」が設計支援ツールによって実装前の段階であらわにされる点だ。もちろんすべての問題が漏れなく示されるわけではないが、Excelあたりで設計情報を管理するやり方と比べたら雲泥の差である。

 そして、ピアレビュー(同僚や同業者によるレビュー)においてイケてない設計を指摘されることは恥ずかしい。ゆえに、適切な設計支援ツールを組織的に利用することで、設計担当者は恥をかかぬように懸命に仕事をするようになる。これを「ハズカシー駆動設計(Hazcacy Driven Design, 略してHDD)」と呼ぼう。

 これに関連するのだが、最近話題になったokachimachiorz氏のブログ記事「設計と実装の狭間で - 急がば回れ、選ぶなら近道」を読んだ。業務システムの開発において、しっかり設計することで開発コストが削減されるはずなのにそれを示せていない。設計作業そのものの意義まで疑われてしまいそうだ。そもそも「設計過疎」なプロジェクトが多すぎる。そんな嘆きである。

 たしかに嘆かわしい状況であるが、私に言わせればその原因はまことに単純である。okachimachiorz氏が見聞きしたプロジェクトでは、「設計過疎であることが事前にハズカシーほどあらわになる」ような適切な手法や設計支援ツールが使われていなかったのであろう。

 それはちょうど、なまくらなナイフを使って何かを削り出す仕事をやるようなものだ。成果の良し悪しが傍目にはわかりにくいうえに、良い成果を得るためには必要以上の労力が要る。ゆえに品質向上の努力が見合わない。そればかりか、仕事に向いていない要員や無意味な手法の闖入まで許してしまう。遅かれ早かれ仕事そのものの意義まで疑われるだろう。

 いっぽう、切れ味の良いナイフを使えば、器用であれば効率的に良いものを生み出せる。つまり、作業者の職業適性の有無が歴然とする。適性のある者はフィードバックループの中でどんどん腕を上げてゆく。弘法は筆を選ばないかもしれないが、適性のある者ほど厳選された道具との親和性が高い。

 ここらへんについて勘違いされがちなのだが、専門職において道具が厳選されるのは「誰もがその仕事をできるようになるため」などではない。残酷なことに「適性のある者がさらにパフォーマンスを高めるため」であるし、「適性に欠ける者をやんわりと拒否するため」でもある。鋭い道具を使うことで成果の品質分布が良質側に移動するが、じつはこのときに要員の淘汰や手順の洗練化が同時に進行する。

 システム設計のように難度の高い専門職においては、とくにこのような配慮が欠かせない。なまくらな設計支援ツールを使う限り、設計スキルは向上しないし、そもそも事前にしっかり設計することの意義も理解されにくい。「設計なんて要らない。作りながら設計して、完成したシステムから必要なドキュメントを逆生成すればいい」といった素人的発想さえ検討されるようになる。

 結論。販売管理システムや生産管理システムといった業務システムを設計する際には、とりあえず切れ味の良い設計支援ツールを使うべきだ。今や選択肢は、DOA系やUML系が有償無償で数多く出回っている。いろいろ試したうえで職場の標準ツールにしたらいい。どれも使い物にならないと思えるのであれば、急いで自作したほうがいい。

 なぜか。業務システムのように複雑な構築物を設計する場合、その姿や組立手順を事前に頭の中に描ききるためには、専用ツールによる支援が欠かせないからだ。そして、職場の設計環境を適切に整備・標準化することで、レビューが効率的かつ効果的にになるだけでなく、開発事例が知識として理解しやすい形で蓄積されてゆくからだ。結果的に設計コストが削減されるとともに、職場の設計スキルが底上げされる。なんのことはない。仕事で使われている道具そのものが、その組織の技術レベルをハズカシーほどあらわにしているのである。

|

« 「データモデリングライブ@名古屋(11/24)」のお知らせ | トップページ | 「データモデリングライブ@名古屋」報告 »

コメント

「情報システム法」という法律ができて、情報システムの設計に従事する者のが取得すべき国家資格を独占資格にする以外に設計者の質をあげる方法はないと思います。「イケてない設計」に恥ずかしさを感じることのできる設計者は、少なくとも自分の設計が「イケてない」ことを認める謙虚さと「イケてない」理由が理解できるレベルですが、システム開発の現場には「イケてない設計」に対する自覚を持っていない設計者が多く存在しているのが現実ではないでしょうか。親にとって自分の子供は可愛く思えるのが人情とういうものですね。

投稿: czhong | 2013.01.11 23:24

なるほど。とりあえずは「イケてないことがアカラサマになる」ような設計情報管理ツールを導入したほうがいいと思います。そのうえでも自分の設計のイケてなさに気づかない鈍い設計者はいるかもしれない。それでも、ピアレビューで周囲が気づくので一定の組織的牽制にはなる。

この意味で、設計作業にEXCEL方眼紙のような汎用ツールを使うのは最低のやり方です。それは「曇ったメガネ」とか「曇った鏡」を使っているようなもので、みんな仲良く鼻毛が伸び放題のことに気づかない(><)

投稿: わたなべ | 2013.01.12 09:37

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「恥ずかしさ」で設計品質を高める:

« 「データモデリングライブ@名古屋(11/24)」のお知らせ | トップページ | 「データモデリングライブ@名古屋」報告 »