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2012.03.14

自治体システムは日本に1個あればいい

 大震災から1年たったが、この間に職業上考えさせられたのは自治体システムのことだ。3年ほど前にその基本設計情報「CONCEPTWARE/自治体」をまとめて未完成のまま公開したのだが、途方もないことに気づいて更新をやめてしまっていた。何に気づいたかというと、「住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)の機能を包含する自治体システムが日本にたった1個あればいい」ということだ。全自治体がそれを使いさえすれば、いろいろな無駄や不便が霧散解消する。震災後にそのことをあらためて痛感させられた。

 住基ネットの機能を包含した形の自治体システム――その何がうれしいのか。それは多重化されたサーバ上にあって、全自治体の職員が使う。ふだんは自分たちのセグメントにログインして仕事をするが、災害などの非常時には必要に応じて他自治体向けのセグメントにログインして、そこの住民向けの事務処理を代行する(これを職権代行と呼ぼう)。また、住民情報に「避難者属性」のサブタイプが付加されており、このデータを起点として、被災自治体の住民でありながら全国どこの住民サービスも受けられる。

 もちろん、法令や個別の事情によって、自治体毎のアドオンやカスタマイズも必要だ。たとえば「固定資産管理」あたりは自治体毎の独自色が強く(それが本当に必要なのかどうかも別途議論されるべきだが)、そんな部分については従来どおり地域のソフト開発企業が協力すればよい。ただし職権代行やバージョンアップのことを考えれば、基本機能については個別カスタマイズが禁止されるべきだし、それ以外の機能についても勝手気ままというわけにはいくまい。

 ただしこの統合システムは、住基ネットが持つ機能を内部に含んだ形でしかデザインできない。現状では、外部の住基ネットとデータ連係する形で、それぞれの自治体が独自システムを開発・運用している。これを続ける限り、無駄や不便はなくならない。そのことに気づいてしまったゆえに、「CONCEPTWARE/自治体」を完成させることをやめてしまった。ひとりでやるのは無理だ。なにしろ住基ネットを含めて再設計しなければ、使いやすいしくみにならないのだから。

 現状の象徴的かつ身近な問題として「転出届」と「転入届」とが別になっている点を挙げよう。その不便さは「住所不定」が生ずる原因のひとつにもなっているのだが、本来ならば「転居届(注)」として1度届けるだけで済むはずだ。「転入先に住み始めたら14日以内に転入届をしなければ5万円以下の過料(住民基本台帳法第51条)」なんて窓口で面と向かって言われたら、私など「ヌゥ?それはそっちのポンコツなシステムの都合だろうが!」とジャガーさんのように叫んでしまいそうだ(いや叫ばないが)。

 なぜこうなっているかというと、現状の住基ネットは氏名・住所・生年月日・性別・住民票コードの5項目(および更新履歴)を管理しているが、「どこの自治体の住民であるか」を管理していないためだ。そのため各自治体システムは、住民情報が意図的に登録されない限り、転入者を住民として認識できない。各自治体が記録できるのは「この自治体にこの住民がいつ転入して、いつ転出したか」までであって、たとえ転入先が明記された転出届けを受け取っても「転入先自治体の住民」として更新できない。

 リモートプロシジャコールのような技術上の工夫でこの「転出転入泣き別れ問題」くらいは解決するかもしれないが、その程度の改善で満足してはいけない。非常時の職権代行や被災者支援までを考えれば、住基ネットを全国共通の自治体システムとして全面刷新するほうが合理的だ。自治体のシステム維持コストが大幅削減されると同時に、住民にとっての利便性や職員の事務効率が格段に向上する。

 自治体システムは「住民のインフラ」ではなく「国民のインフラ」である。自治体システムが自治体毎に異なっている現状は、鉄道のレール幅や電力周波数が自治体毎に異なっているようなものだ。税金・年金一体改革や震災復興を奇貨として「日本国自治体管理システム」が整備されることを待望する。

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注:現状では「転居届」は自治体内での住所変更を意味するが、住民にとっては他自治体への転居(転出&転入)と同じ事象である。住民にとってはただの住所変更であって、転居先が自治体の内なのか外なのかはシステムの内部処理の問題でしかない。また、本来ならその届け先窓口もどこでもよく、大阪市から札幌市に転居する旨を那覇市で届けてもよいし、もちろんPCから届出してもよい。現状でも住基カードを保持していれば、転出に関しては郵送での届出(付記転出届)が可能だが、双方の自治体に届けなければいけない点で変わり映えがしない。

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コメント

それ、構想中の「自治体クラウド」と、どこが違うんでしょうか?

投稿: 安岡孝一 | 2012.03.19 14:27

安岡さま

ポイントは住基ネットをどうするかです。自治体クラウドの試みが住基ネットを含めて合理化する動きにつながるのであれば素晴らしいとは思うのですが、どうなんでしょうかねぇ。

投稿: わたなべ | 2012.03.20 10:08

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