« ウォーターフォールがなくならない理由 | トップページ | 「複合キー」と実装用フレームワーク »

2010.08.31

会計システムのクラウド化と税理士事務所

 弊社のような小さい会社だと、会計データを律儀にとって眺めても経営判断の役には立たない。銀行から借金するときには決算書があったほうがいいのだが、とりあえず借金の必要もない。にもかかわらず、会計システムを使わねばならない。税理士に会計データを渡して法人税を計算してもらう必要があるからだ。

 税理士などを介さずに、会計システムで法人税計算までやれたらいちばんいい。ところが日本の税制度が複雑すぎて、どうしても「税務のプロ」に会計データを渡して法人税を計算してもらわねばならない。具体的には、会計上の「税引前利益」から「益金・損金」という独特な基準を用いて法人税算定基礎額を算出し、申請書類を作成してもらうことになる。日本の法人税率は高いとよく言われるが、納税コストも高いのである(泣)

 そういうわけで、起業間もない会社や小規模事業者は市販の会計パッケージを購入して使うことになるのだが、ちょっとした葛藤がある。なにしろそれは「会計システム」という名の「法人税計算用基礎データ登録専用システム」なのだ。しかもそれはあくまでも「登録専用システム」であって、法人税計算や申告書出力をやってくれるわけではない。そんな中途半端なシロモノを購入しなければならない。昔は税理士に伝票類や領収書を渡すだけで済んだようだが、そのほうが合理的だったのかもしれない。

 会計パッケージのベンダーから有償バージョンアップの案内が来るのが、またウザったい。こちらとしてはべつにそのパッケージを気に入ったから使ってるわけではない。法人税計算のための基礎データを税理士に渡す。そのために便宜上使っているものでしかない。バージョンアップしても納税コストが安くなるわけではないんでしょう?

 そんな疑問を感じていたのだが、ふと気づいた。会計パッケージのバージョンアップも、日常のバックアップも、最初のインストールさえも、契約している税理士事務所が代行し、クライアントは仕訳データを入れることだけに徹する――そんな体制が今では実現可能だ。会計パッケージがクラウド化されていさえすればいい。

 どういうことか。まず税理士事務所が、ベンダーの提供するクラウド化された会計システムを長期契約する。新たなクライアントと顧問契約を結んだなら、税理士事務所は新たなインスタンスを立ち上げ、そのURLとパスワードをクライアントに伝える。クライアントは手元からそのURLにログインして、せっせと会計データを入れる。税理士事務所は各インスタンスから会計データを適宜ダウンロードして、自分たちの法人税管理システムにインポートし、税計算や申告書作成を行う。

 会計パッケージは法令改正やベンダーの都合でバージョンアップされるが、これは基本的にクライアントの作業に影響を与えない。まず、税理士事務所が通知を受けて、バージョンアップが必要かどうかを判断する。必要と判断したなら、定期の保守作業の中でバージョンアップと既存インスタンスに対するデータ移行を行う。その後でクライアントは、何事もなかったように新しいバージョンで仕訳入力を継続できる。

 これはクライアントにとって喜ばしい体制だ。顧問契約にともなって指定の会計パッケージを買う必要もないし、バージョンアップの手間も追加費用も要らないし、災害時にもデータが保全される。会計データが「雲の向こう側」にあることに抵抗を感じる向きもあろうが、実務上の利点は大きい。税理士事務所として会計システムの維持作業にかかるコストが気になるというのなら、契約金とは別の細目として条件提示すればよい。それでも喜んで契約する会社は少なくないのではないか。

 見方を変えれば、会計パッケージをいち早くクラウド化して提供することが、パッケージベンダーの営業戦略にもなろう。なぜなら、税理士事務所は彼らの大口顧客であると同時に、クラウド化された会計システムを用いた「軽やかなサービス」を提供できる税理士事務所ならば、地域で繁盛する可能性が高いからだ。そんなところが地元にあれば、私などさっそく乗り換えるだろう。小規模事業者は「法人税計算用基礎データ登録専用システム」などにお金をかけたくないからだ。

 さてお気づきだと思うが、これは「会計システム+税理士事務所」の組み合わせの特殊事例ではない。クラウド化された業務システムの業務特性に応じた運用ノウハウを持っている専業者が窓口となって支援サービスを提供する、という汎用的なビジネス形態の話だ。多様な業務システム向けのクラウドサービス事業の基本パターンになり得る。

 ただし、上述の組み合わせは比較的実現しやすい事例ではある。なにしろ、会計システムのパッケージに対してカスタマイズ要求はほとんど上がらないのだ。いっぽう、本格的な販売管理システムや生産管理システムであれば、なんらかのカスタマイズが要望されることが避けられない。その種のシステムをクラウド化しても、カスタマイズが難しいのではしょうがない。

 いっぱんに「本業管理システム」のクラウド化には、カスタマイズしやすい業務システム基盤が必要になる。従来型のパッケージでは困難だろうが、アプリケーションドライバ(*1)上で構築された業務システムならば対応しやすい。これをクラウド化して提供すれば、いろいろ面白いことが起こるだろう。

*1.アプリケーションドライバとは、コードではなく仕様書でアプリケーションを駆動するためのソフトウエア基盤のこと。OSSのアプリケーションドライバ XEAD Driver とその上で動く販売管理システム「CONCEPTWARE/販売管理」の開発を、筆者らは進めている。

|

« ウォーターフォールがなくならない理由 | トップページ | 「複合キー」と実装用フレームワーク »

コメント

まったくその通りですね。会計ソフトの各社はクラウド化をすすめています。

その中でも特異なのがTKC全国会です。企業はTKCのクラウドシステムに入力します。TKCは詳細な分析資料を税理士に渡します。税理士はその資料を見ながら原始証憑をチェックする仕掛けになってます。納税作業は現場で煩雑な事が発生するため、地場の税理士とWin-Winの関係を築く素晴らしいモデルだと思います。

投稿: HAT | 2010.09.01 11:55

なるほど。会計パッケージメーカーがクラウドサービスをクライアントに直接提供して、地元の税理士も紹介するという形態ですね。私が上で書いたのは税理士事務所主導のパターンだったのですが、メーカー主導でもいいわけですよね。

投稿: わたなべ | 2010.09.02 12:17

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 会計システムのクラウド化と税理士事務所:

« ウォーターフォールがなくならない理由 | トップページ | 「複合キー」と実装用フレームワーク »