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2010.04.13

クラウドと基幹システム

 「猫も杓子もクラウド」のご時勢だが、どうも腑に落ちないことがある。クラウドというのは要するに「部屋を借りるのも安いし、必要に応じて部屋の大きさが拡張します」という話である。それはそれで気が利いていると思う。しかし、そもそもその「部屋」を誰が作るのか。

 「作る必要はありません。クラウドベンダーによって提供され、保守されます」

 ほほぅと感心しつつ調べてみると、見積書と納品書あたりを発行するためだけの「販売管理システム(!)」とかECサイトのような単機能モジュールは見つかる。いわば「会議室」とか「展示会用ホール」とか「小売用店舗」みたいな特定用途向けの部屋だ。そういうものではなく、事業を進めるための統合事務処理環境、つまり「基幹システム」はどうなっているのか。

 「SOAですよ。ご存知ありません?クラウド上で提供されているサービスを自由に組み合わせることで、基幹システムだろうとお望みのものが手に入ります」

 なんと。本当にわかって説明してるのかね。基幹システムというものは、「統合されたデータベース」上で成立するしくみだ。その上で起こるすべてのデータ処理に、すべてのデータ項目の意味合いとアクセス手順が周知されていなければいけない。単純に組み合わせるだけでは動かないのだ。

 たとえばクラウド上に「発注管理システム」と「在庫管理システム」があって、これらを組み合わせるとしよう。物販業においては、入荷・検収にともなって仕入計上と在庫計上が同時に起こる。もともと独立していたそれらのモジュールを組み合わせるだけでそのような処理が起こるわけではない。各モジュールが管理するデータ項目の意味合いとアクセス手順を相手に理解させるための大がかりなカスタマイズが要る。

 もしカスタマイズなしで動くとしたら、もともとその発注管理システムがその在庫管理システムとセットで動くようになっていただけの話で、それならば初めから導入単位として2つに分けて示す必要はない。単一のシステムに「発注管理機能」と「在庫管理機能」とが含まれていると説明すればいい話だ。「SOAです」なんてカッコつけてもしょうがない。

 そして、在庫管理機能が含まれているのであれば、受注・出荷管理機能も含まれていてほしいし、そうなると売掛管理機能もほしい――てなわけで、手軽に使える業務システムが提供されるというのであれば、統合された基幹システムとして利用可能なものでなければならない。そういうシロモノが業種・業態のバリエーション別に整備されているのか。データサイズ10ギガまでタダだったりするのか。カスタマイズもお手軽なのか。そんな話は聞かない。

 「たしかにそのようなサービスはございません。ご不満ならば、お望みの基幹システムをご自分で作られたらいかがでしょう。使いやすいEclipseプラグインも用意されていますよ」

 なんだ。けっきょく個別案件毎にちまちま開発するのか。それじゃあ今までとちっとも変わらない。それも、先進技術の上で旧態依然とした仕事をやるというアンバランス。USSエンタープライズ号の艦長が、鉛筆でノートの上に航海日誌をしたためているようなものだ。

 じっさい、サーバー費用が1000分の1になろうが、データベースが自動スケールアップ可能になろうが、モデリングの難しさも、いちいちプログラミングするという開発効率の悪さも変わらない――ではしょうがない。クラウドは「公開するまでウケるかどうかわからないWEBサービス」のようなシステムを開発するためには好都合なのだろう。しかしそれらのソフトウエアと基幹システムとはあまりにもタイプが違う。これらをごちゃ混ぜにしてクラウドの意義を語れば混乱を招くばかりだ。

 とまあいろいろケチをつけるようだが、クラウドがいつまでも業務システムの世界と無縁であり続けるとは私も思っていない。「アプリケーションドライバで動くモデルシステム(*1)」が完成すれば、それがクラウド化されるのは時間の問題だからだ。

 ただしその場合でも、クラウドが関わることじたいに大した話題性はない。アプリケーションドライバでモデルシステムが動いていることのほうが重大である。明確なモデルにもとづいて組み立てられた業務システムがあって、その仕様書を修正するだけでカスタマイズできてしまう。結果的に、業務システムの設計・開発・導入コストが大幅に削減される。この変化に比べたらクラウドなんて刺身のツマでしかない。


*1.アプリケーションドライバとは、仕様書情報にもとづいてシステムを動作させるためのプラットフォームのこと。筆者謹製のアプリケーションドライバ「XEAD Driver」と、その上で動くモデルシステム「CONCEPTWARE/販売管理」の開発が進められている。

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