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2009.12.27

酸素濃度と進化爆発と技術革新

 大気の酸素濃度は、地球史においてダイナミックに変化してきた。現在は21%だが、22億年ほど前は数%しかなかった。35億年ほど前にある種のバクテリアが光合成を発明して以来、酸素濃度は次第に高まっていったが、酸素濃度が現在のレベルになるまでには紆余曲折があった。現在より高い時期もあって、シルル紀には25%、ペルム紀初期にはなんと34%に達していた。

 地球生命史において何度か「進化爆発」が起こった。「進化爆発」とは、「カンブリア大爆発」を好例として、短い期間に「種」どころか「門」のレベルの多様な生物が現れる不思議な現象のことだ。最近の研究で、酸素濃度が低めの時代に、進化爆発が起こるという相関があることがわかってきた。それも酸素濃度が数ポイント変動するだけで、大きな変化が起こるようなのだ。

 これをどう解釈したらよいのだろう。酸素を効率的に取り入れることは、生物の基本設計における重大要件である。酸素濃度が高めの時代に基本設計を確立した生物種は、低めになると急速に衰える。なぜなら生物はその時点の酸素濃度にギリギリ最適化した形の呼吸メカニズムを獲得するからだ。酸素濃度の減少に耐えられない生物群が衰えると、生物学的ニッチが広がる。そこに充満するように、多様な生物群が突然現れる。それが「進化爆発」の基本的機序ではないかとも考えられている(「恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた」ピーター・D.ウォード,文藝春秋,2008)。

 この大胆な仮説を読みながら、生物にとっての酸素濃度は、技術にとっての景気のようなものだとつくづく思わずにいられなかった。どこへ行っても景気の悪い話ばかり聞かされるが、意欲と能力のある技術者にとって機会に満ちた良い時代が到来しているのかもしれない。不景気が「技術爆発(技術の多様化)」を引き起こすかもしれない。

 景気が良ければ、実績や先例が重視されるため革新的技術が採用される機会は少ない。ところが景気が悪化すると、いくら手馴れたものであろうと費用のかかる技術は敬遠される。結果的に、新しい技術のための経済学的ニッチが生まれる。少ない費用で効果をあげる技術が世に出るチャンスだ。

 コストパフォーマンスの悪い御大尽的開発技術やそれを提供する企業群は、この不況で打撃を受ける。個々の事例は悲惨なものだろう。しかし、その陰々滅々とした状況が、革新的技術が世に出るための揺りかごになっているという面もあるということだ。

 息の長い技術とはどういうものか。鳥類が長期に渡って広範囲に繁栄しているのは、酸素濃度の低い時代にきわめて効率の良い呼吸システムを獲得したためらしい。彼らは大気の酸素濃度が薄くなる時期が来るたびに、空いたニッチへの進出を繰り返していったのだ。景気がもっとも悪い時期に通用する技術を生み出せ。景気が悪くなるたびにその技術のシェアは増えてゆくだろう――自然はそのことを教えてくれている。

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