« 設計者がひとりで実装できる時代に | トップページ | スクリプトエンジンの可能性 »

2009.05.28

システム業界向け「モデルハウス」開発快調

 持ち家を欲しいと考えた人は、たいていモデルハウス巡りをする。その過程で、曖昧だった家のデザインや予算もはっきりしてゆく。依頼すべき業者も決まってくる。顧客が満足できる家を手に入れるために欠かせないもの、それがモデルハウスだ。

 ところが、システム業界にはモデルハウスに相当するものがない。簡単にダウンロードできて、簡単にインストールできて、いきなり動かせる業務システムがない。これはおかしい。その異常さを理解するためには、モデルハウスのない住宅建設がどんなふうになるかを考えてみたらよい。たとえばこんな風だったりするのだろう。

 持ち家を欲しいと考えたある若夫婦が住宅建設会社にやってくる。担当営業は「わが社はお客さまの持ち家に対する要求をモデリングして、わかりやすくフィードバックします」と言う。何だかわかりにくい言い方をするなといぶかりつつも夫婦が了承すると、数日後、彼らのもとにひとりの技術者が現れる。彼は、夫婦が住んでいる2Kの安アパートをていねいに測量し、彼らの生い立ちや身長・体重、および嗜好、趣味、習慣、信念、野望をこまごまとヒアリングしてゆく。その2週間後、営業担当と技術者が膨大な「要件定義書」を持ってやってくる。

 難解な図面の山をひっくり返しながら、夫婦が尋ねる。「あれ?これには家の外観や間取り図が含まれてないんですか?」担当者はにこにこしながら答える。「それはこれから作るんです。今回お渡ししたものは『家の分析図』であって『家の設計図』ではないんですよ。まずはお客様の『持ち家に対する要件』を私どもが正確に理解しているかどうかを、この図面で確認していただけますか。ご確認の後に設計は始まります」夫婦はけげんな表情を隠せない。

 これまでの「分析作業」とやらにかかった費用を見てもため息が出るのに、「設計作業」にもけっこうな費用がかかるらしい。そんな夫婦の気持ちを察して、彼はやさしく言い添える。「大丈夫ですよ。我々の分析手法は最新の知見にもとづくもので、要件は適切に体系化されています」夫婦はその前日に、産科医から懐妊を伝えられたばかりだった。家族が増えたことを伝えたら最初からやり直しになるんだろうか。「施工作業」にかかる費用までほんとうに払えるのだろうか...

 こんな調子でシステム業界ではこれまで、分析・設計工程が必要以上に幅をきかせてきた。じっさい、それらの幅をきかせなければまともなシステムを作れなかった(幅をきかせてもうまくいくとは限らない)。とはいえ、分析・設計に必要なリソース(費用や要員や工期)を確保することは容易ではない。それがあまりに難しいので「とりあえずプログラミングして動かしてみれば、販売管理システムだろうと生産管理システムだろうとアーキテクチャはおのずと明らかになる」なんてやけっぱちな主張さえ出てくる始末だった。けっきょくのところ、事前の分析・設計をいい加減に済ませば、プロジェクトは遅かれ早かれ火を噴く。結果的に、企業にとってシステム開発は、ハイリスクでコストパフォーマンスの悪い設備投資になってしまった。

 なぜか。他でもない。建設業界における「モデルハウス」に相当する「モデルシステム」が、この業界で欠落しているためだ。それゆえに案件毎にいちいち分析・設計しなければいけなくなっている。そして、業界に棲む人々でさえその異様さに気づいていない。なぜなら「存在していないものが欠落していること」を認識することがそもそも難しいからだ。

 さて、この不況以降、企業は業務システムの開発・維持に高いコストをかけることをしなくなるだろう。赤字なのに高額の維持費が固定的にかかるシロモノなんて、誰が使い続けたいと思うだろう。長年使っていたとしても、気に入らなくなればバッサリ破棄できて、新しいシステムにパッと乗り換えられる。それくらいお手軽感のあるシステムでなければ受け入れられない時代になる。

 そんな時代に、データモデルや業務マニュアルやプログラム仕様書等の設計情報が添付されている「オープンパッケージ」が注目されるのは自然なことだ。それこそが「モデルシステム」だからだ。業種・業態毎にライブラリー化されたパッケージをどんどんダウンロードしてもらって、どんどん動かしてもらう。その結果、顧客のシステム要件が回顧的に明らかになる。たいそうな要件分析だのモデリングだのは要らない。モデルシステムに触れることで明らかになったシステム要件にもとづいてカスタマイズすれば、望むシステムが手に入る。

 この不況のおかげでオープンパッケージにとっての追い風が吹き始めている。ブルーオーションを吹き渡る革新の風だ。本邦初のオープンパッケージである「CONCEPTWARE」の実装版も開発快調。乞うご期待。

|

« 設計者がひとりで実装できる時代に | トップページ | スクリプトエンジンの可能性 »

コメント

いつも有難く読ませてもらってます!
さて、企業がシステムを構築するとき、大抵の場合は現行システムが存在すると思います。このとき、その企業にとって現行システムは、パッと使って試せるモデルシステム以上のものでは?と思いました。
ただし、現行システムのドキュメントが整っているかというと、そうではないと思います。
逆に、モデルシステムがあったとしても、その構造が分かりにくければモデルシステムの現行分析が必要になるんだと思います。
やはり、分かりやすい設計と、そのドキュメント群が本質的に必要なのかな?と思いました。

投稿: くまきち | 2009.05.30 01:23

くまきちさん

仮に現行システムのドキュメントが充実しているし新システム向けの要件も明らかだとして、新システムに類似したモデルシステムが見当たらなければスクラッチ開発すればよいし、あればそれをカスタマイズすればよいでしょう。ケースバイケースですね。

言われるように、モデルシステムにとって「ソースコード」を公開することよりも「設計情報(データモデル、業務マニュアル、詳細設計書)」を公開することのほうが重大です。ソースコードを公開するだけでは「オープンデザイン」の要件を満たさないので「オープンパッケージ」ではないし「モデルシステム」とも呼べない。設計図を見せてくれないモデルハウスなんて怪しすぎますからね。ここらへんが、コードが重要視されているオープンソースソフトウエアとは性格が異なる点です。

投稿: わたなべ | 2009.05.30 10:22

 もうすぐ公開ですか。楽しみです。

 企業によって少しずつ業務の手順やルールが違いますから設計と言っても何種類公開すればどれだけの割合の会社に適合するのか気が遠くなりますね。でも0には何を掛けても0ですが、1は100倍すれば100になります。0から1の壁は大きいでしょうが頑張って下さい。

 SAPなどの汎用ERPは、パラメータだけで様々なルールを実現してます。いわば詳細設計=パラメータなんですね。その実現のために、DBのプライマリーは単なる連番にして、それを検索するための複雑なテーブル構造を持ってます。ある意味汎用言語に近いのかも知れませんね。

投稿: HAT | 2009.06.09 14:49

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: システム業界向け「モデルハウス」開発快調:

« 設計者がひとりで実装できる時代に | トップページ | スクリプトエンジンの可能性 »