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2006.10.14

「押しかけ実況書記」のススメ

 打合せの場で、頼まれもしないのにホワイトボードの前に立って書記役をやることがある。討議の内容をその場でボード上に図解したり、検討事項を文章として書き表すのである。「実況書記」とでも呼べそうな役割なのだが、ボードのコピー等を文書として残すためというより、討議の進行を導くための工夫として欠かせない。だから、誰もホワイトボードの前に出ないようなら筆者は進んでこの役を勤めるようにしている。

 とりとめのない討議のことを「空中戦」と言うことがある。たとえば、誰かが何か重要なことを言ったのに、それに対して別の誰かがどうでもいいようなコメントを言って、そのどうでもいいようなコメントの一部にもとづいて話が展開するといった調子だ。結果的に最初に提示された重要な意見は無視されるし、論点も行き当たりばったりになる。「空中戦」という言い方は、いつまでたっても論点が空中をさまよって着地しない、カジュアルな言葉のやりとりだけの感じをうまく表している。そんな会議の場にいたりすると、自分は人生の時間をなんと無駄にしているのだろうと悲しくなる。

 議論が空中戦になることを防ぐための、手軽で便利な道具がホワイトボードだ。どういう経緯で現時点で何を討議しているかがそこに示されることで、議論があらぬ方向へ滑り出すことを抑えられる。たいていの会社にはホワイトボードの1台くらいはあるだろうから利用しない手はない。

 ところが、自ら進んでホワイトボードの前に立って会議の実況書記をやろうなんてキトクな人物が多いはずはない。文章が下手だとか、字が下手だとか、知識が足りないとか、マーカーがかすれているとか、太陽が不条理にまぶしいとか、辞退すべき理由はいくらでもある。

 しかし、他の職種ならさておき、システム開発の上流工程を担う技術者になりたいと望むのであれば、そういう機会をとらえて「押しかけ実況書記」を勤めることをお勧めする。一時の辛苦を補って余りある利点がいろいろあるからだ。

 まず、討議の内容を誰よりも理解できるようになる。これに関して、専門的な知識がないと書記などやれないのではないかと敬遠する向きもあるかもしれないが、心配ない。会議に召集されている限り、メンバーの誰もが書記役が務まる程度の最小限の専門知識は持っているはずだ。会議のメンバーには多様な専門家が含まれているのがふつうだが、すべての専門知識を備えていなければ討議内容が理解できないなんてことはない。もしわからない専門用語が出てきて議論の流れが見えなくなったら、その用語の意味をその場にいる専門家に教えてもらえばいいだけのことだ。だから、書記をやることで知識もまた増える。

 もうひとつの利点は「図や言葉を用いて状況を様式化する」という設計者に求められる技能がいやがうえにも鍛錬される点だ。緊張感の中で頭を高速回転させてホワイトボード上に議論の状況をリアルタイムで図解してゆく。その過程は、モデリングセッション(ユーザーと打合せしながら行うシステム設計のこと)の現場と同じくらいに過酷だ。だから、システム設計者になるための教育の一環として、社内での会議の実況書記をやらせるようにしてもいいかもしれない。そういう経験なしでいきなりお客さんの前で稚拙なセッションをやって恥をかくよりは、社内の会議で恥を重ねつつ鍛錬できたほうがよほどダンドリがいい。

 持ち帰って議事録や設計図面をまとめる――そんなことを繰り返しても、システム設計の訓練にはならない。実況書記が効果的なのは、議論の進捗に応じた「刻々変わる状況を文章や図解を用いてその場であらわす仕事」だからだ。システム設計者に求められる役割はまさにそういうものだ。なぜなら、ユーザの要求をその場で引き出し、要求に対するシステム設計をその場で提案し、彼らにその場で了解・納得してもらえないとしたら、設計工程としての生産性が悪すぎるからだ。そのために必要な技能は経験によって磨かれるものなので、実況書記などはうってつけの訓練となる。

 システム設計をやれるようになりたいって?じゃあ今日の会議の実況書記をやってくれる?え?恥ずかしい?げぼーっ、君はシステム設計がもっともっとハズカシイ仕事だってことを知らなかったのかー!

※参考エントリー:システム設計は「成果物を他人にジロジロ見られるハズカシイ仕事」

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コメント

初めてコメントさせて頂きます。ねこに・こばーんです。

"図や言葉を用いて状況を様式化する"

SE(System Engineer・Sales Engineer)にとって最も重要視される
Stuffですね。最近は色々なビジネス書や雑誌でも紹介される様に
なってきましたが、やはりアイデアクラフトの開米氏のアプローチは
参考になりました。

(^^;は図解思考の神髄とは→
"『変化する』状況を図や言語を用いて様式化・抽象化する事"と考えております。

斯様な意味で最近になって再度理解にチャレンジしているのが
「ファインマンダイアグラム」です。

いずれにせよこちらは非常に為になるブログと思いました。
今後とも宜しくお願い致します。

投稿: ねこに・こばーん | 2006.11.04 21:38

ねこに・こばーんさん

「図解」って難しい課題ではありますが、SEにはとくに重要な職業的技能ではあるのでしょうね。ちょっと調べてみましたが、ファインマンダイアグラム、面白そうですね。工夫次第で設計図面として使えるかもしれません。

投稿: わたなべ | 2006.11.05 11:32

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