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2006.08.15

在庫引当から在庫推移へ(前編)

 在庫管理分野でのデータ項目として「有効在庫(利用可能在庫)」と呼ばれるものがある。現在庫数量から「直近の出荷予定数量」を差し引いて得られる値を、事実上利用可能な在庫数量とみなして管理する。現在庫には直近の出荷予定が「引当」されていると考えるわけだ。式で表せば次のようになる。

 有効在庫数量=現在庫数量-Σ(直近の出庫予定数量)

 現在庫が100個だとして、直近での出荷予定が合計70個だとすれば、有効在庫は30個である。この時点で50個の注文があったとする。有効在庫が30個であることを知っていれば、すぐに出荷できる分30個と、将来の入荷後に出荷できる分20個とを分けて受注するといった事前の交渉が可能だ。いっぽう有効在庫を認識していないとすれば、すぐに出荷できる受注として50個分をひとまとまりとして受け付けてしまうだろう。結果的に、出荷時点で欠品に気づいてあわてるハメになる。

 在庫数量が規定レベルを下回れば追加発注するという在庫管理ポリシー(「発注点管理」という)が採用されている場合、監視される在庫は「現在庫」ではなく「有効在庫」だ。直近の出荷予定をほぼ確定された出荷とみなせば、引当されている数量分はすでにないものと考えるほうが自然だからだ。在庫管理ポリシーが「ダブルビン方式」や「MRP」でも同様だ。

 このように、出荷を確実にするための工夫として有効在庫の考え方は有用である。しかし、問題がないわけではない。なによりも、何をもって「直近の出荷予定」とみなせばよいかが曖昧な点だ。

 ふつうは「出荷指示書」を発行する処理の中で、対象となる受注数量を現在庫に引当すべしと考える。つまり、出荷指示されたものが「直近の出荷予定」だと考えるのである。ところが、この考え方は「悪用」されやすい。

 もし出荷指示処理をユーザが恣意的に実行できるようになっていれば、ふつうに賢い営業マンであれば、ずっと将来の納期指定で受注見込みを登録したうえでいきなり出荷指示しておくだろう。なぜならそうすることで、出荷日が到来するまで「自分だけが使える在庫」を確保しておけるからだ。もしも受注見込みのアテがはずれたら、出荷指示や受注を取り消せば「悪用」の跡は消せる(ログを見ればわかるが)。しかし、少なめの有効在庫にもとづいて追加発注された事実のほうはふつうは消せない(発注管理者は別の人物だから)。結果的に在庫がダブつきがちになる。

 そのような乱用を避けるために「出荷指示書の発行を許す受注の納期は3日先まで」といった意味合いの「納期のオフセット日数」をシステム変数として保持しておく方法も考えられる。まあそれでも3日以内の納期を持つ「受注見込み」を毎日登録して毎日削除することによって「自分だけが使える在庫」を確保し続けることもできるにはできる。しかし手間がかかるし、変なことをやっていることがバレやすいので、乱用抑止の一定の効果はある。

 しかし、それでも別の問題が生じる。最初はたとえば3日だったオフセット日数が、次第に4日、1週間と長くなってゆきやすいのである。それはそうだ。「4日後の出荷予定(引当できない)向けの在庫を確保したい」という営業マンの気持ちはよくわかる。オフセット日数がn日だとして「n日目から直近」を納期とする大口注文を受ける可能性は常にある。だから、営業マンたちの通常の販売努力にもとづく要望にもとづいて、引当対象となる納期の範囲は次第に長めに修正されてゆく。範囲が広がれば受注キャンセルの可能性も高くなるため、結果的に在庫はダブつきやすくなる。

 じつはここでの最大の問題は、3日だろうが10日だろうが、期間内に散らばっている「直近の出荷予定」を現時点での引当対象とみなしている点だ。そもそも「n日後(n>0)の出荷予定が現時点の現在庫のあり方に影響を与える」と考えることに無理がある。nの値を大きめに考えたらわかりやすいが、n日目の在庫に問題が生じそうなのであれば、n日目以前に対処できていればよいのであって、現時点であわてる必要は必ずしもない。

 そういった考え方を徹底した在庫管理ポリシーが、「生産管理・原価管理システムのためのデータモデリング」で紹介した「在庫推移監視方式」である。MRPと同様にコンピュータの利用を前提とするものだが、MRPとは発想が180度違っている。後編でそのしくみと意義を説明しよう。

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