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2006.07.22

拡散思考と集中思考のバランスをはかる

 筆者が推奨するシステム設計手法「三要素分析法」において、ユーザとのモデリングセッションが完了したなら、モデリングツールへの設計情報の登録(とりまとめ)を実施する。その段階で基本設計情報としての体裁は整うが、完成度はまだ低い。関係者によるレビューや、現行システムとの突き合わせ(現状分析)を実施し、さらにそれをユーザーに検収してもらって、基本設計の成果物がようやく完成する。

 設計の初めのほうで業務フローを描き始めた頃にあった茫漠感は、「とりまとめ」あたりにもなればほとんど解消する。必要な帳簿組織、機能、業務体制は当初にユーザが想像していた以上に明確になる。同時に、その局面ではさまざまな要素間の矛盾や漏れにも気がつくもので、考慮されるべき要素間の整合性の量はモデリングセッションとは比べ物にならないほどだ。

 その変化は、作業の進捗にともなって「拡散思考」と「集中思考」の比率が変化してゆく過程でもある。初めの頃は、「曖昧で散漫な前提条件にもとづいて、適切と思われる解決案を直観的に創出する思考(拡散思考)」が優勢だが、次第に「明確な前提条件から唯一の正しい答えを分析的に導く思考(集中思考)」の割合が大きくなってゆく。グラフにすると次のようにS字曲線が交差した形になる。
Graph

 各段階でこれらの思考様式のバランスをはかることは重要だ。最初のうちは「手書き」で失敗や矛盾をおそれずに伸びやかにモデリングすることが推奨される。しかし、手書き資料にもとづいてモデリングツールで整理する段階以降では、定義要素間の整合性をこまごまと調整するといった辛気臭い状況のほうが多くなる。その段階では集中思考が活用される。このような比率の変化は、拡散思考と集中思考との特性を分析設計作業の進捗に合わせて活用するためには良いことだ。

 ところが、「正しくモデリングするためには徹頭徹尾、『集中思考』を駆使できる体制でなければならない」という方針をとっている分析手法もある。そのような手法においては、殺人事件の現場検証をするかのような緻密さで、ユーザの要望や現行システムのあり方を調べまわって記録し、分析するスタイルをとる。以前にも説明した、80年代に流行したSA/SDなどはその典型例だ。

 そのスタイルは筆者としてはどうも馴染めない。なぜなら、分析・設計作業の初期段階では人(ユーザ)の思いこそが最重要の素材となるからだ。そして、人の思いやその内容の表現が曖昧で矛盾に満ちていることを、自分自身を顧みてもよくわかるからだ。

 そういうアテにならないものを相手にする局面では集中思考に頼るべきではない。拡散思考にもとづいて手に入れた素材をロジカルに再構成する段階まで、集中思考は懐にしまっておいたほうがいい。手順論(「様式論」と対比している)は、そのような切り替えが効果的かつ自然に進むように、設計者を支援するものでなければならない。

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