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2006.04.02

家計における「資本勘定」とは(後編)

 前回、簿記が次の「4象限」にもとづく残高構成の変化を捉える体系だと説明した。これらがさまざまな仕訳科目の最上位分類となる。

   借方  貸方

BS 資産  資本・負債

PL 費用  収益

 家計であってもこの分類は基本的に同じだが、「資本」がわかりにくい。家計は資本金がいくらなどといった経済主体ではないからだ。そこで資本を、決算時に資産から負債を差し引いて決まる勘定、すなわち「自己資産」とみなす。さらに費用と収益をそれぞれ「支出」と「収入」と表記してみると、「家計簿」っぽく見えてわかりやすい。

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金      自己資産
      100万円     100万円
PL 支出        収入
   ―――――――――――――――――――
   合計 100万円  合計 100万円

 家計は元入れ(もといれ。元手の資金を資本金として事業を始めること)から始まるわけではないので、上のように手元に資産が現預金として100万円あるとすれば、自己資産額は100万円(資産総額)-0円(負債総額)=100万円とみなされる。ここから家計のさまざまな取引を見てゆこう。

 まず、20万円の給料をもらったとする。給料は家計における収入なので、残高は次のように変化する。

<仕訳1>
 現金20万円/給料20万円

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金      自己資産
      120万円     100万円
PL 支出        収入
               給料
                 20万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 120万円  合計 120万円

 家族で外食して1万円を現金で払った。

<仕訳2>
 食費1万円/現金1万円

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金      自己資産
      119万円     100万円
PL 支出        収入
    食費        給料
        1万円      20万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 120万円  合計 120万円

 海外旅行をして50万円(2回分割払い)をカードで払った。

<仕訳3>
 娯楽費50万円/負債50万円

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金       カード払い
      119万円      50万円
             自己資産
                100万円
PL 支出        収入
    食費        給料
        1万円      20万円
    娯楽費
       50万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 170万円  合計 170万円

 現金20万円で金貨を買った。金貨は、眺めて楽しむだけのために買うものではないだろうから、換金可能な財産として資産計上される。

<仕訳4>
 金貨20万円/現預金20万円

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金       カード払い
       99万円      50万円
    金貨        自己資産
       20万円     100万円
PL 支出        収入
    食費        給料
        1万円      20万円
    娯楽費
       50万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 170万円  合計 170万円

 カード払いの50万円の1回分が銀行預金から引き落とされた。25万円の元本が減って、利息1万円を払ったとすると、次のようになる。

<仕訳5>
 カード払い25万円/現預金26万円
 支払利息  1万円

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金       カード払い
       73万円      25万円
    金貨        自己資産
       20万円     100万円
PL 支出        収入
    食費        給料
        1万円      20万円
    娯楽費
       50万円
    支払利息
        1万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 145万円  合計 145万円

 金の価格が暴落したので、評価損を計上する。

<仕訳6>
 評価損2万円/金貨2万円

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金       カード払い
       73万円      25万円
    金貨        自己資産
       18万円     100万円
PL 支出        収入
    食費        給料
        1万円      20万円
    娯楽費
       50万円
    支払利息
        1万円
    評価損
        2万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 145万円  合計 145万円

 ここで決算する。決算の手順としては、前回も説明したように、勘定残高構成のBS部とPL部を引き剥がして、それぞれに調整項目を載せて貸借の合計を一致させる。

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金       カード払い
       73万円      25万円
    金貨        自己資産
       18万円     100万円
  (調整) 34万円
   ―――――――――――――――――――
   合計 125万円  合計 125万円

   <借方>      <貸方>
PL 支出        収入
    食費        給料
        1万円      20万円
    娯楽費
       50万円
    支払利息
        1万円
    評価損
        2万円
            (調整) 34万円
   ―――――――――――――――――――
   合計  54万円  合計  54万円

 収支(損益計算)としては34万円の赤字になった。つまり、調整額34万円はBS上で「処分されるべき利益」ではなく「処理されるべき損失」である。損失額は自己資産で補填することで「処理」される。結果は次のとおり。

   <借方>      <貸方>
BS 資産        負債
    現預金       カード払い
       73万円      25万円
    金貨        自己資産
       20万円      68万円
   ―――――――――――――――――――
   合計  93万円  合計  93万円

 このように家計の動きを例にして簿記システムを見ると、その効果と限界がよくわかる。カード払いであっても消費時点で支出計上がきっちりなされる点や、資産の時価評価への対応など、あたりまえながらしっかりしている。

 しかし、オフバランス要素(BSに計上されていない財産)の効果はここからは見えない。家計の残高構成は、家庭の「明日への活力条件」を部分的に反映するものでしかない。その多くの部分がオフバランス要素である。自己資産額がゼロ以下の「債務超過」状態の家計であっても、家族は希望にあふれて健やかに過ごしている可能性はある。優良家計でありながら家族が絶望している可能性もある。

 そのような限界はあるものの、家計の勘定残高構成をしっかり把握することは重要である。とくに、伝統的な家計簿では捉えられない債券やローンといった多様な要素を現代の家庭ではふつうに扱う。それらの状態があいまいなままで運転するのは、ライトの壊れたクルマに家族を乗せてドライブしているようなものだ。家族がニコニコしていても悲しそうでも、財政危機に早めに気づいて対処するために家計も簿記の枠組みで捉えたい。

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