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2006.02.11

システム開発にもセカンドオピニオンを

ソフト業界の人間ならば耐震強度偽造問題は他人事ではないだろう。実に多くのことを考えさせられるし、新しいことも学ばされる。その中から今回は第三者の評価眼の重要性について述べたい。

◆建築設計での役割分担とセカンドオピニオン

 耐震強度偽造問題を通して有名になった事実のひとつが、建築設計が「意匠設計」と「構造設計」と「設備設計」の3つ(「電気設計」を含めた4つとする考え方もある)に分類されるという点だ。建物の外観や間取りをデザインするのが「意匠設計」で、骨格の強度をデザインするのが「構造設計」、給排水や空調、それに電源まわりのあり方をデザインするのが「設備設計」である。それぞれの分野が専門的で、ひとりの設計者ですべてはまかないきれない。

 本来なら、ひとつのプロジェクトの中でそれらが担う専門性を追求することが変に制約されてはならない。今回の問題の要は、これらの専門家のあるべき役割分担が、ディベロッパーによって恣意的にコントロールされた点に集約できる。とくに、素人である発注者にとってわかりにくく、かつコスト削減効果が高いような分野があるなら、その部分を担当する専門家の何らかの弱さは悪意のあるディベロッパーからの攻撃対象となるだろう。今回の事例において、そのような対象が「構造計算」であり、それを担当した建築士だったということだ。

 そんな事態を避けるために効果的なのが、専門家の成果に対する「セカンドオピニオン」である。もともとは医療の分野で提唱された制度で、医師の診断や治療方針に関して患者が気兼ねなく別の医師の意見も聞けるようにする。専門家の意見が妥当かどうかを本人に正すだけではわかるはずもないので、第三者である同業者の意見を聞かせてもらおうという制度だ。

 今回の耐震偽造問題では、第三者の役回りを果たすはずだった民間の検査機関がまともに機能していなかった。検査が早くしかも甘いのはどこかを知っておくなんて「ノウハウ」さえ存在していた。しかし、いくつかの設計事務所が構造設計の異常さを指摘したことが、この問題を公にするための重要な役割を果たしている。「頼んでもいないセカンドオピニオン」が威力を発揮したわけで、要するにどんな専門分野であっても基本的に「同業者をダマすことは難しい」のである。

◆システム設計にも必要なセカンドオピニオン

 業務システムの設計もいくつかの専門分野に分かれる。少なくとも、基本設計、詳細設計、ネットワーク設計の3つには分かれる。基本設計の担当者には業務設計やDB設計、それにUI設計に関する専門性が求められ、詳細設計には実装技術に関する専門性が、ネットワーク設計には関係するハードウエアやセキュリティに関する専門性が求められる。素人であるユーザが設計成果物の妥当性を評価しにくいどころか、担当分野が異なれば業界の人間であってもチンプンカンプンかもしれない。当然ながら、ひとりの技術者にすべての分野に精通することを期待することには無理がある。

 それゆえにシステム開発においても、設計成果に対するセカンドオピニオンが積極的に取り入れられるべきだ。とくに基本設計やネットワーク設計に関しては、文書の量が少なめでチェックの手間もそれほどかからないので励行されていい。ひとつの案件について2社以上に依頼してもたいした費用はかからないだろう。

 基本設計に関してさらにいえば、「どんな表記体系で基本設計文書がまとめられているか」は想像するほど問題にはならない。三要素分析法だろうが、UMLだろうが、BPMNだろうが、同業者ならば表記法の違いを超えたコンテンツの妥当性は読み解ける。まあ一貫性のない体系でまとめられていたり、あまりにまとまりが悪い場合にはさすがに評価しにくいだろうが、そんなときは「設計書としてまとまりが悪すぎるので評価不能」という「最低点」をつけて返せばいい。

 設計文書の様式よりも重大なのが、それを第三者に示すことでの「プロセスモデルや帳簿組織の開示」をどう評価するかである。確かに、ユーザ企業が競合他社を意識して第三者への開示に慎重になることはあるだろう。しかしそれは問題にならない。クライアントが「セカンドオピニオンを仰がないことにともなうリスク」よりも「開示にともなうリスク」のほうが大きいと評価したのなら、それに従えばよいだけの話だ。

 問題はむしろ、システム設計を担当した業者が「わが社の貴重な設計ノウハウを外部に漏らしたくない」と第三者への開示に抵抗しがちな点である。そういう姿勢がときには設計技術のつたなさを隠すための大義名分だったりもするから、作業委託契約を結ぶ際にセカンドオピニオンを外部に依頼することを抜け目なく明記しておいたほうがいい。当然、セカンドオピニオンの依頼先とも守秘義務契約を結ぶ必要はあるだろう。

 じつは、わざわざ第三者の設計技術者に依頼するまでもなく、不適切な設計を牽制する手っ取り早い方法がある。とりあえず、設計業者と構築業者を分ければいいのである。次回でその点について述べる。

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