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2005.11.05

わかりやすさと論理性を両立させる(後編)

わかりやすさと論理性とを両立させる意志がないなら、どんなに構文が厳密な表記法を使おうが実用的な図面は生まれない。厳密な表記法のひとつであるデータフローダイアグラム(DFD)を使った業務フローで検討してみよう。

 FAXや電話で顧客から注文を受けて、その内容を受注簿(受注テーブル)に書き込む。このプロセスが「受注担当者」に担当される「受注登録」という名前の仕事だとすると、単純に描けば業務フローは図1のようになる。

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 FAXや電話ではなくWEB経由で受注する場合、業務フローはどうなるのだろうか。ちょっと考えると図2のようになる気がする。

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 しかし図2をよく見ると、システムの外部主体である「顧客」が「注文のWEB登録」なる業務を担当する「業務担当者」としても現れている。それは「非論理的」とは言えないまでもなんとなくすわりが悪い。システムの外にいる自分から何かを受け取る自分。業務フローを見て理解できないわけではないがどこか奇妙だ。

 じつはこのケースでは、図3のようにコンピュータを業務の担当者とみなすとすっきりする。

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 FAXや電話を用いた受注登録の例では、その業務を担当するのが人間(受注担当者)で、人間がその業務を遂行するためにコンピュータ上の道具立てを用いると考えていた。いっぽうWEB経由での受注業務は、コンピュータによって、コンピュータ上の道具立てを用いて遂行され、その過程でシステム外部にいる人間との通信をともなうものと考えればよい。伝統的なEDIでの受注データの受信過程にシステム外部の人間とのやりとりが部分的にかかわっていると解釈してもよい。外部主体であるはずの顧客を無理やり社内業務の担当者とみなす必要はないということだ。

 「コンピュータが担当する業務」とみなせる例は今ではふつうに見られる。一定時刻になれば自動的に起動されるバッチ処理なんかが代表的だ。「コンピュータ君」が時計を見ながら適宜プログラムを起動しつつ業務をこなしている、とイメージしてもらえばよい。

 もうひとつ、病院の外来受診まわりでの単純化された例を見よう(図4)。

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 これだけ見ると何の疑問も感じられないかもしれないが、「診察」との連係を描き出すとちょっと変な感じになる(図5)。この形だと、診察受付と診察との間でどんなに時間が経過してもかまわないように読めてしまう。間違った感じはないものの工夫の余地がありそうだ。

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 そこで図6のように考える。この図では、患者(の人体)が待合室に一次的に保管される形でその経過時間の現実的な許容範囲が示唆されている。また、図5では診察において患者からの訴え(病状)が入力情報になっているが、図6では患者そのものが入力物となっている。「診察」が「患者からの聞き取り」だけで済むものではなく、人体を見たり聴いたり触わったりもするプロセスであることをうまく示している。

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 つまり「診察受付」は、もともとは外部主体であった「患者」を「診察券」と「患者(の人体)」とに異化してシステム内の要素として取り込むための業務単位とみなせる。ここでも、現象の表層をより論理的な関係として捉え直す配慮が求められる。その過程で「わかりやすさ」が犠牲になっているわけでもなく、むしろ向上している。

 ようするに、どんな図法を用いるかに関係なく「わかりやすく論理的な資料を作ろう」という覚悟がなければ品質の良い図面は生み出されないということだ。とくに実装工程では、成果物がコンピュータ向けのものであることに甘えずに「わかりやすさ」への意志を持ちたい。そして分析設計工程では、成果物が人間向けのものであることに甘えずに「論理性」への意志を持ちたい。

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受信: 2005.11.06 01:56

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