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2005.11.26

ホワイトボードの前でどれだけジタバタできるか

 このブログへの検索キーワードとしていちばん多いのが"XEAD"で、その次くらいがなぜか"as is"と"to be"だ。結果的に過去のエントリーとして「『As-is先行』か『To-be先行』か」がよく読まれている。システム開発に関わっている人々の多くがそこらへんに興味を持っているようだ。

 じっさい、開発者向けの記事を扱っているサイトでもここらへんの問題はしばしば扱われている。しかし、それらのほとんどは当たり前のように「まずは"as is(システムの現状)"をまとめて問題点を明らかにしたうえで、"to be(システムのあるべき姿)"をまとめる」と説明している。

 上記のエントリーでも述べたように、筆者の主張はそれとは反対で「まずは"to be"をまとめてから"as is"とつき合わせてモデルを洗練させるべき」というものだ。これが唯一の正解とは言わないが、それぞれのやり方の特徴については理解しておいたほうがいい。

◆「as is先行」と「to be先行」の特徴

 まず「as is先行」の利点としては「プロセスとして習得しやすい」という点が挙げられる。一定の手順を決めて手順毎の文書を規定すれば、一定以上の事務処理能力があるなら訓練しだいで誰にもやれるだろう。

 いっぽうで短所もいろいろある。まずは、時間と費用がかさむという点だ。現行システムのあり方を調べて問題点をまとめる――とことばで言えば簡単そうだが、多くの関係者から何度もヒアリングしてとりまとめ作業を重ねる必要がある。膨大な情報がさまざまな様式の文書としてまとめられてゆく。そのやり方は実際に工数がかかるし、有能な要員を投入しなければ仕事にならないので、分析設計だけで相当なコストがかかることを発注側は覚悟しなければいけない。

 また、そのやり方は現行システムが存在する場合にのみ使えるという問題もある。現行システムが存在しないような新奇な事業を企業が始めることがまれだとしても、現状を無視して全面刷新してしまいたいという意図から始まる案件は少なくない。そのようなケースで無理に「as is先行」を適用すれば、変わり映えしないシステムが設計される可能性が高い。

 「to be先行」の長所・短所は上記の逆だ。利点としては的確なモデルを得るための最短路をたどれる点、それと、現行システムに対する重要視の度合いに関係なく一定の手順でモデリングできる点である。

◆設計者とユーザーの分業体制の違い

 2つのスタイルでとくに異なるのが、設計者とユーザとの分業体制だ。「as is先行」では設計者は新システムのあり方を「まとめる者」であって、さまざまな考慮事項を収集して整理する役目を果たす。ユーザーはそれらの情報の提供者としての意味合いが強い。

 いっぽう「to be先行」では、設計者は新システムのあり方を「想像する者」である。良く言えば「創造する者」だし、悪く言えば「でっちあげる者」。ユーザーはといえば、設計者によって提示された仕様の適正さを「評価する者」だ。「でっち上げられた仕様」であっても、ユーザーが承認したとたん「創造された仕様」になるということだ。

 そのスタイルではいわゆるトレーサビリティのような関係も希薄だ。当初は思いもよらなかった機能が設計者によって想像されてユーザーに承認されたなら、それは過去に明示されたどんな要求にもひもづけできない可能性がある。セッションの場でユーザーが「言われてみれば確かにそんな機能も不可欠ですね」と発言するのを筆者は何度耳にしたかわからない。

◆アジャイルモデリングとは

 だから、モデリングセッションでの設計者の負担は大きい。与えられた乏しい手がかりにもとづいて、もっともらしいモデルをその場でどんどん提示しなければならない。ユーザーがそのモデルを見て「違います」と言えば、その場で異なるモデルをまた何度でも描き直す。安楽な仕事じゃない。

 まさにそれは「依頼者にとってカワイイと思えるような女の子の絵」を依頼者に代わって描いてあげるような過程だ。設計者にとってはカワイイと思えても依頼者にとってはカワイクナイ。そんな絵をどんどん描いてどんどんダメ出しされる。つらい。しかしその理不尽なつらさこそが「アジャイルなモデリング」の真髄だと筆者は考える。

 モックアップや実際に動くコードを組む前に、ホワイトボードの前、つまり顧客との打合せの「その場」でいかに多くのぶざまな失敗を重ねることができるか。それが問われている。なぜなら、設計物の「工学的な妥当性」はそのようなジタバタを繰り返すことでしか改善できないからだ。

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