« バカもハサミもバカなコダワリも使いよう | トップページ | ピーター・ガブリエルの家でゴチになった話 »

2005.07.02

会計システムのアーキテクチャ論

「制度会計(財務会計)」と「管理会計」との主従関係をどう捉えるかによって、会計システムのアーキテクチャは大きく違ってくる。現在、「制度会計に管理会計が寄生しているスタイル」が主流であるが、筆者はその反対の「管理会計に制度会計が寄生しているスタイル」のほうが適切であると主張していて、現在開発中の「CONCEPTWARE/財務管理」もそのような形をとっている。これらの2つのスタイルの違いを見よう。

◆制度会計と管理会計の主従関係

「制度会計」とは要するに「簿記」の枠組みのことで、「企業活動にともなうさまざまな取引を仕訳として様式化して決算書の形に集計する」というのが基本的な役割である。簿記や決算公告のルールに依拠しているという意味から「制度会計」と呼ばれる。いっぽうの「管理会計」とは、社内での管理用の枠組みのことで、形式に制限はなく、それぞれの会社で都合の良い独自の形をとる。

まず、現在の主流である「制度会計に管理会計が寄生しているスタイル」というのは、「管理会計上の諸問題を仕訳に組み込んでしまう」というものだ。とりあえずすべての取引を1個ずつ仕訳して決算書を作るいっぽうで、仕訳データを集計して管理会計上の諸問題を管理しようとする。既存の会計システムがこのスタイルをとっているかどうかは、仕訳テーブルのレイアウトを調べてみればわかる。プロジェクトコードや取引先コードといった項目がこまごまと載っているはずだ。

いっぽうの「管理会計に制度会計が寄生しているスタイル」では、仕訳テーブルは単純な形をとる。このスタイルにおいて仕訳は、公告用の決算書を出力するためだけのネタなので、必要最小限度の項目さえ載っていればいいからだ。日々の活動はそれぞれの業務データ管理サブシステムによって管理されている。個々の取引毎に仕訳する必要はなく、月次でも、場合によっては四半期毎のサマリーデータからでも仕訳すればいいので、仕訳データ量もずっと少ない。期中の進捗については、仕訳データ経由ではなくそれぞれのサブシステムが保持する数字を直接集計して監視すればよい。システムは基本的に「管理会計システム」で、決算書出力機能が「オマケ」としてついているようなイメージだ。

現実には、前者、つまり管理会計のほうが付属的であるスタイルが主流だ。その理由のひとつとして、会計処理のコンピュータ化が、仕訳データを作り出して保持することを目的として始まったという経緯を挙げられると思う。このため、「コンピュータ化された会計システムにおいて、企業活動は仕訳を通して眺められるものだ」という思い込みが開発者にあるのではないか。だから「いかに気の利いた仕訳データを用意するか」が彼らの目標だ。気の利いた仕訳データさえ作ってしまえば、じゅうぶんに多様な切り口から分析・集計できるはずだ――彼らはそのように考える。ERPはそのような姿勢がたどり着いたひとつの帰結であって、仕訳データは限界まで複雑なものとなっている。

しかし、そのようなあり方は筆者には「進化の袋小路」に見える。なぜなら、仕訳データの構造に依拠した管理会計の枠組みは、仕訳データが保持する以上の情報を扱えないからだ。業務の現場の要請にもとづいて管理項目が増えたとたん、インフラである仕訳処理から見なおさねばならない。たかだか公告用決算書を出すために日々の業務を改善しにくくなるとしたら本末転倒だ。筆者が構想している姿がベストとは言わないが、「管理会計に制度会計が寄生しているスタイル」の合理性に関する議論がもっとあってもいい。

◆税務との関係

会計システムのアーキテクチャに影響を与える要素としてもうひとつ無視できないのが「税務」だ。実際のところ会計システムの複雑さは、制度会計、管理会計、税務の三つどもえの結果でもある。なにしろ制度会計は投資家向けの枠組みだし、税務は課税者向けの枠組みだし、管理会計は経営者や業務担当者向けの枠組みなので、水と油のように異質だ。ゆえに、会計システムを設計するというのは、それらの要素の絡まりを解きほぐして結びなおすことであって、想像以上に技術と根気のいる作業だ。

「税務」の要素は会計システムにどのような影響を与えるのだろう。「会社にお金が残らない本当の理由」(岡本吏郎著)で鮮やかに示されているように、税務の枠組みでは利益が実態以上に大きく示される。そのような不自然さにもかかわらず、多くの中小企業が制度会計や管理会計を飛び越えていきなり税務の枠組みで決算している。それは、公告義務のない会社であっても、法人税は確実に納付しなければならないからだ。ところがそのやり方だと、会社が意外と利益を出しているように見えてしまうので、本来必要な内部留保がされなくなるという事態を招きがちだ。

しかし、そんな時代ももうすぐ終わる。平成18年度内に商法と有限会社法が「新会社法」として統合されるとともに全面改訂されて、株式会社の決算公告義務が強化される(*1)。そうなると、制度会計を飛び越えて税額計算だけを目的とする安直な決算手順は通用しなくなる。まずは制度会計の様式で決算して、そのうえで法人税額計算のための調整処理をこなすという、本来あるべき手順を踏まざるを得なくなる。

制度会計と管理会計、そして税務という3つの枠組みのバランス良い統合――それこそ新制度が要請している新しい会計システムの姿だ。会計システムのアーキテクチャ論が面白い時代が到来しつつある。

*1.商法は決算の公告義務に関して「ザル法」であった。これを鑑みて、新会社法においては決算公告義務を怠った場合の「罰則」が明確に規定されると考えられている。しかしその具体的な内容が現時点では明らかではないことから、「公告義務を怠った場合の罰則も盛り込まれる」という表現をこのように修正した。

|

« バカもハサミもバカなコダワリも使いよう | トップページ | ピーター・ガブリエルの家でゴチになった話 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 会計システムのアーキテクチャ論:

» 会計システム [眠る開発屋blog]
会計システムについて、制度会計、管理会計、税務に対する興味深い記事。 会計システムのアーキテクチャ論 記事の終わりの今後の流れについて若干触れている。しかし、そんな時代ももうすぐ終わる。平成18年度内に商法と有限会社法が「新会社法」として統合されるとともに全面改訂されて、すべての法人に決算公告義務が生じるからだ(怠った場合の罰則規定も盛り込まれる)。そうなると、制度会計を飛び越えて税額計算だけを目的とする安直な決算手順は通用しなくなる。まずは制度会計の様式で決算して、そのうえで法人税額計算のため... [続きを読む]

受信: 2005.07.03 03:03

» 制度会計システムと管理会計システム [Hot Heart, Cool Mind.]
データモデルに関する素晴らしい本を書いていらっしゃる渡辺幸三さんが、「会計システムのアーキテクチャ論」と題して、制度会計システムと管理会計システムの関係についてブログに書いておられた。...... [続きを読む]

受信: 2005.07.10 17:09

« バカもハサミもバカなコダワリも使いよう | トップページ | ピーター・ガブリエルの家でゴチになった話 »