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2005.07.16

ホワイトカラーの仕事をカイゼンするために

ある人が家庭の事情や不慮の事故で突然職場を去ることになったとき、仕事の引継ぎで混乱してしまう職場は少なくない。とくに「そのひとでしかやれない仕事」が多ければ多いほど、職員の退職にともなう影響は大きく、混乱が何ヶ月も尾をひいたりする。そのような状況が生じたとしたら、だいたいは「仕事を誰にも担当できるように定義しておく」という本来必要な作業を怠っていた管理者の怠慢が責められるべきだが、部分的には職員自身の利己的な姿勢の結果でもある。

◆業務が定義されることへの恐れ

職場にコンピュータを導入する過程で、職場で実施されている業務の棚卸が行われる。誰によってどんな業務が、どれくらいの頻度や工数でなされているか――それを整理・分析してシステム化の投資効果の見込みも立つ。

ところが、職員によっては業務を定義されることなど余計なお世話だったりする。そんなことをすれば、自分が給料に見合う働きをしていないことが明らかになるからだ。規模の小さな企業ではそんなムダは致命的なのでさすがに少ないが、規模が大きくなればなるほど、ムダは隠され、温存される。

また、業務が定義されるということは、規定の能力さえあれば誰でもその仕事をこなせるようになるということでもある。これは多くの職員にとって脅威に映る。なぜなら自分が置き換え可能な部品とみなされるゆえに、永続的な雇用が保証されなくなると思えてしまうためだ。

業務の現場で働いているユーザーこそ、システムの仕様を組み立てるための手がかりをもたらす最も重要なリソースである。だから、彼らに協力してもらえなければシステム化の成功はおぼつかない。ところが、業務を定義するということが、そもそも彼らの存在意義に対する脅威なのである。どうしたらいいのだろう。

◆「カイゼン」をホワイトカラーの評価項目に組み込む

職員や部門ごとに、「より多くの人員でも実施可能なように、より効率よく実施できるように、担当業務を再定義し続けることをどれだけやったか」、つまり「カイゼン」の実績を能力評価の項目に加えればよい。評価期間において有効な業務改善がどの程度実行されたかは、管理者であれば掌握可能だ。規定業務の遂行効率と合わせれば、ホワイトカラーの能力評価体系であっても客観化することは難しくない。

考えてみれば不思議なことだが、カイゼンは職員の永続的雇用を不安定にするものであるにも関わらず、日本の製造業では伝統的に実践されている。それはなによりも、カイゼンを行うことで、仲間との感情的な交流や承認を得られるからだ。仲間と助け合いながらひとつの目標に進む過程で受ける社会的承認というのは、俸禄と同じくらいに重要だ。「給料がちょっとくらい安くても仲間から仕事で認められている」と、「仲間から軽んじられているが給料はちょっと多い」とどちらがいいかと問われたら、多くの日本人は前者を選ぶだろう。そのような文化的価値観を仕事の文脈に組み込んだ制度がカイゼンであるともいえる。

ところが、そんなに良いものであればホワイトカラーの分野でもカイゼンがされていていいはずなのに、そうなっていない。なぜだろう。それは、事務仕事の対象が目に見えにくい「情報」だからである。仕事で扱っているものの形が目に見えない限り、仕事のあり方も共有されない。だからカイゼンも進まない。

◆事務仕事の内容を視覚化する

事務仕事において視覚化される対象は「情報の形(帳簿の論理構造)」だけではない。情報を処理するための「手順(ロジック)」や、分節された「仕事のひとまとまり(業務単位)」とそれらの「連係様式」も示す必要がある。

今ではその作業は、データモデリング技術やモデリングツールを用いれば難しいことではなくなっている。すべての種類の事務仕事を扱えるわけではないが、定義可能なものだけでも整理しておけば、十分な効果がある。XEADではたとえば次のように示される。

いくつかの業務単位の連係のようす

ひとつの業務単位に含まれるロジック

業務で扱われる情報の形

繰り返すようだが、システム導入のためだけにこれらの形式化がなされると考える限り、業務を「誰でも担当できる仕事」として定義するという自己否定的な過程にユーザーが協力してくれるわけがない。だからこそ、継続的に業務効率を向上させ続け、それに協力することによって仲間うちでの評価が高まり、また給与レベルも向上するという文化的・制度的な支援が必要だ。

ある人が退職するとき、仲間と会えなくなることの寂しさがあるだけで、仕事の引継ぎのための混乱はほとんど生じない。それがまともな職場というものだ。それは「カイゼン」がもたらす多くの恵みのひとつでもある。

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