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2005.06.04

経営革新をやれるというシステム屋のうぬぼれ

◆システム屋が経営革新をもたらす?

「最新のITを活用した経営革新をご提案します」なんて言葉がSIerの広告にはあふれている。システム業界に限らず、「この商品/サービスを買えば、あなたはシアワセになれる」という幻想をユーザに持ってもらうのが商業広告の基本的な役割ではあるので、まあわからないでもない。

それが広告の世界だけのお約束である限り実害はないが、システム屋(企業システムの構築屋)がもし「自分は顧客の経営を革新できる」と本気で語っているとしたら気をつけたほうがいい。成長する過程で一度くらいはそんな背伸びをすることがあるにせよ、いつまでもそんな風に思い続けるのはオメデタ過ぎる。筆者も昔そんなはしかにかかったもので、その後遺症で「経営革新を生み出すには」みたいなことを書くこともあるが、さすがにちょっと気恥ずかしい。

システム屋が経営革新を語ることの不自然さは、この商売を「小売店をテナントとする商業ビル賃貸業」に喩えることでよくわかる。貸しビル屋の役割は立地条件が良く使い勝手の良い営業拠点を提供することだ。ある洋品店が一等地に開業して成功したとしても、貸しビル屋は「洋品店の経営革新をやった」とは考えないだろう。扱う商材の良さが立地条件によってスポイルされなかっただけのことで、立地条件が商材の良さをさらに向上させたわけではないからだ。反対に、どんなに立地条件が良くても商材が悪ければ失敗するのも当然だ。

ところが、情報システムを刷新して企業収益が改善したりすると、刷新プロジェクトに関わったシステム屋は簡単にうぬぼれてしまう。確かに、システム屋が開発したシステムがその企業の業績改善に貢献した可能性はあるが、それは「経営改革」でも何でもなくて、たんにユーザー企業が持っていた元々の商材の良さを、企業システムがスポイルしなかっただけのことだ。にもかかわらず、システム屋は舞い上がって「我々は経営改革をやれる。革新的な経営戦略を提案できる」なんて言い出すようになる。システムを使えば商材の魅力を倍加できる、なんてことさえ考えるようになる。

◆経営革新は経営者の仕事

このように説明すると、ITを用いてなされた経営革新の実例をいろいろ挙げた反論があるかもしれない。たしかにITの発展は、今までとまったく発想の異なるさまざまな事業スタイルを生み出し続けている。

しかしシステム屋は、ITの組み上げ方をよく知っているというだけのことだ。それを知っているからといって自動的に経営上の起爆力を洞察できるわけではない。優れた刀鍛冶が自動的に優れた剣法を考案できるわけではないのと同じ話だ。

本来、ITを使った新事業を考案するのも、ITに経営革新の可能性を見出すのも起業家や経営者の仕事だ。これをやれるような経営者ならば、ITのことを詳しく知らなくても、経営上の価値を洞察できる。さまざまな事物の中に経営革新のネタを見出すのが経営者の仕事であって、ITなんてそれらの事物の一部でしかない。システム屋の仕事は、たまたまITが一要素になっている経営者のアイデアを具体化することだ。

言い方を換えれば、経営者が「×××とやらが効果があるそうだが、これを用いた経営革新を提案してほしい」なんて職務放棄的な依頼をするような末期的な企業には関わらないほうがいい。経営が末期的でないとしても、その手の生半可な理解から始まるプロジェクトはまともな結果を出せないものだ(経営コンサルタントに多額の謝礼を払った残りの予算でシステム屋がこき使われるパターンがこれ)。求められているものが経営革新だろうと業務改善だろうと、プロジェクトは経営者自身の理解力と発想力を越えることはできない。

◆システム屋の分限

それにもかかわらず、なぜシステム屋は主体的に経営革新がやれるなんて万能感を持ってしまいがちなのか。それは、それが奇妙であることが他人にはわかりにくいからではないだろうか。貸しビル屋が「洋品店の経営革新をやった」なんて言うのが奇妙であることは別の業界の人間にもわかる。しかし、ITはドッグイヤーで変化・発展しているので、そのようなうぬぼれが奇妙であることを、他業種の人間ばかりか同業者であってもなかなか理解できない。

だから、せめて同業者としてあえて言っておこうと思う。業務プロセスを効率化するための地味な計画と実装を、ITを用いて手堅くやれる――それがシステム屋の分限であり、求められる専門性だ。ユーザ企業の業績がシステム刷新の後に上向いたなら、それはその企業の元々の実力のおかげであって、システム屋としてはそのような過程に関われたことに感謝するだけでいい。どうしても経営革新だの経営戦略なんて言葉を使って華麗に提案したいのなら、そういう職業は他にいろいろあるから鞍替えしたほうがいい。もちろんそれはそれで、深い専門性と鍛錬が求められる厳しい世界だ。

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コメント

確かに今でもそういう錯覚はありますねぇ。

バブル真っ盛りの時、「売上を2倍にします」なんて提案を見た事があります。今はお客様が賢くなって、逆にIT業界がそういう悲哀を味わってるそうです。

WEBショップなど、今までお客様にはなかった販売チャネルを増やす提案で、「わかりました。では利益折半ということでやりましょう。」なんて逆提案されるのです。ハードも構築費用もIT会社が持ち出して、ビジネスを始めるわけですからそんな根性あるわけない。

IT会社の提案は「うちに受注ください」という強いバイアスがかかってますから、訴えられない限りどんな事でも臆面もなく書いてきます。

そういう背景から、トータルアウトソーシングなど大きな提案は、WIN-WINから共生へと変わりました。お客様の情報部門をそっくり移籍したり、共同出資で子会社を作るという動きです。

その波も今は昔です。

どんなに美辞麗句をついやしても、IT会社のビジネスとお客様のビジネスが一体化することなど、金輪際ありえないことくらいわからないのでしょうか。謎です。

投稿: HAT | 2005.06.06 18:20

受注活動の過程でここらへんの限界を真摯に説明すれば、かえって注目されて受注できるかもしれません。まあたいていは逆効果で失注するのだろうけど、夢のようなことを描いてようやく受注できる案件って、いかにもあやうい感じですね。

投稿: わたなべ | 2005.06.07 09:47

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» どこまでクライアントの立場になりましょうか [眠る開発屋blog]
興味深い記事。 本来、ITを使った新事業を考案するのも、ITに経営革新の可能性を見出すのも起業家や経営者の仕事だ。これをやれるような経営者ならば、ITのことなど詳しく知らなくても、経営上の価値を洞察できる。さまざまな事物の中に経営革新のネタを見出すのが経営者の仕事であって、ITなんてそれらの事物のほんの一部でしかない。まず、一つはたとえ経営コンサルであっても、彼らは主体ではありえない。 っていうか、経営コンサルの仕事って結局「アドバイザー」なんだろうなぁ、と勝手に思っている。 経営革新の為の色... [続きを読む]

受信: 2005.06.05 01:29

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