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2005.02.26

「実用と鑑賞に堪えるモデル作品」を待望する

◆実際の作品がないのに「いい作り方」と言えるか

昔あるところに、絵の描き方を宣伝している人がいた。「このように描けばじょうずに絵が描けるようになりますよ」と彼は言う。「ではその手法を用いて描かれた実際の作品を見せてください」と言われて彼は次のように答えた。

――いや、これが画期的な描き方であることは明らかなのだが、まずはこの手法を広める必要がある。なぜなら、皆があまりにひどい絵ばかり描いているからだ。実際の作品を示すことよりも、今は手法の普及が先決なのだ。

そのような手法を、読者はコストをかけてまで採用しようと思うだろうか。採用するとしたら、たまたまそのやり方が「気に入った」からであって、そのやり方でうまく描けるようになることがわかったからではないだろう。なにしろ「実際の作品」がまだ示されていないのだから。もし読者がある手法を気に入っているのに職場の上司が理解してくれないのなら、彼らの頭の固さを嘆く前に、その手法にもとづく「実際の作品」を示したほうがいい。それなしで新しい手法を取り入れるほど彼らはうぶじゃない。

書店でさまざまなシステム分析・設計手法の本を眺めていると、そのような違和感にとらわれる。「モデル作品」がないわりに、「このモデリング手法はとにかく有効だから使うべきだ」という主張ばかり並んでいるからだ。音楽にたとえるなら、「楽典」や「作曲法」や「コードの押さえ方とコード進行の基本」みたいな本ばかりで、ポンと手にとってどんどん弾ける「楽譜」がない。将棋で言えば、ルールの解説書や「詰め将棋」の本ばかりで、一局全体の「棋譜」がない。モデリング手法やプロセスの有効性をあの手この手でうったえる記事や書籍ばかりで、財務諸表の出力までをカバーしたまっとうな企業システムの構造を示す「実用と鑑賞に堪えるモデル作品」がないのだ。

◆わかりやすく示すためのツールが必要

まあ、そういう私が提唱している分析手法(三要素分析法)にしても状況は似たようなものなので、偉そうなことは言えない。これまでの著作の中で実用的なモデリング事例を示すことに積極的ではあったけれど、それでも、1個の完結した企業システムを示したモデル作品は示せないでいる。それはなぜかというと、そのようなモデルは非常に複雑かつ膨大なもので、そのまま資料として示してもわかってもらえるとは思えないからだ。だけど、それであきらめているわけじゃない。

じつは、無償のモデリングツール"XEAD(ジード)"の開発は、まさにそのような「モデル作品」をわかりやすい形で世に示すための準備の一環だ。文学作品が普及するために印刷技術が必要だったように、モデル作品が普及するためにもそれを運ぶメディアとしてのモデリングツールが要る。それも格安で使いやすいヤツが。

◆システム設計の「モデル作品」のインパクト

そんなわけで、XEADが完成した昨年末からは、このツールで編集・閲覧可能な「財務管理システムのモデル作品」の開発を進めている。これが完成したら、引き続いて「販売管理」や「生産管理」に取り掛かる予定だ。「どんなテーブルが必要か」、「どんな業務プロセスが必要か」、「どんな機能が必要か」が体系的にモデル化された貴重な「実際の作品」になるだろう。

そのようなモデル作品が、オブジェクト指向分析手法を含めたいろいろな手法向けにも提供されるようになってほしい。そういうものが手軽に参照できるようになれば、「実践的なモデルをほとんど提示しないままの、モデリング手法の有効性の一方的主張」というラチのあかない議論スタイルの時代が終わるからだ。そして、モデリング手法そのものを比較するよりも、同じ対象向けに組み立てられたモデル作品を並べて眺めたほうが、よほど比較しやすいし多くを学べるからだ。さらにうまくいけば、建築がそうであるように、システム設計という工学活動の成果に文化批評的な視点が盛り込まれて、この世界がもっと豊かになるのではないかと期待するからだ。

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今日知ったけど生産管理システムにかんするBlog記事ってほとんど存在しないらしい. いくつか検索してみたけど,ヒットする物はほとんど資格関連や書籍情報だった. ... [続きを読む]

受信: 2005.02.27 16:29

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