2016.09.07

「趣味はシステム設計」くらい言えていい

 仕事の報酬の決まり方には大きく分けて2種類ある。就労時間に応じて決まるパターンと、成果に応じて決まるパターンだ。前者の例はアルバイトや一般事務といった仕事で、後者の例はアーティストや専門家の仕事である。後者であっても拘束時間ベースで契約されることが少なくないにせよ、仕事上の評価は、就労時間ではなく成果で決まる(*1)。言い換えるとその種の仕事は、従事者が少ないゆえに給与レベルは比較的高いが、次に仕事を依頼されるのは「より多く働いた者」でも「よりマジメに働いた者」でもなく、「より成果を上げた者」である。

 言うまでもなく、システム開発の仕事は「専門職」に分類される。使いやすく保守しやすいシステムという「成果」が生み出されさえすれば、それが100人月で出来上がったか10人月で出来上がったかは問題ではない(じっさいこの程度の違いはふつうに生じ得る)。「残念なシステムになってしまいましたが、みんなで残業してがんばりました」なんて言い訳が通用しない厳しい世界だ。

 専門職の厳しさに関するもうひとつの側面は、職能を高めることが、就労時間外でも期待されてしまう点だ。オフコンの技術者だった頃、家でPCのプログラミングをしていると話したら、仕事仲間のひとりが「会社でさんざんコンピュータに触っているのだから、家では触りたくはないなあ」と言ったことを覚えている。彼は自分が専門家だとは思っていなかったのかもしれないが、まあここらへんはひとそれぞれ違っていていい。

 とはいえ、専門家が就労時間外でも職能を高めようと努力するのは自然なことだ。もちろんそれが強制されるわけではないのだが、その努力をしすぎて困ることはない。なぜなら、専門家というのは本質的に「たまたま会社に所属していることもある個人事業主」であるからだ。職能が低ければ、やり甲斐のある仕事にありつけないだけでなく、将来的なさまざまな選択肢が狭められる。たとえば現在の組織が気に入らなければ、気軽に別の組織に移ればいい。そのためには業界内で認められる高い職能が必要だ。

 ではどうだろう。家で技術書を読んだりプログラミングする程度なら、多くの技術者によって実践されている。ところが、仕事と関係ない「システム設計」を就労時間外にやっている技術者となるとなかなかいない。設計スキルに関して会社で一目置かれているとしても、自宅で本格的なシステムの設計をあれこれ試しているわけではない――そんな技術者のほうがふつうだろう。しかし、その程度の精進でこの種の高度専門職を担えてしまう(担わされてしまう)業界も珍しいかもしれない。

 本来なら、システム設計を担当する技術者は「趣味はシステム設計です」と臆面もなく言えるくらいであったほうがいい。なぜならシステム設計というものは、会社から時々与えられる案件をこなすだけで一人前になれる程度の簡単なお仕事ではないからだ。しかも、いい加減な仕事をすれば、多くの人々をデスマーチに巻き込んでしまう。ゆえに、就労時間外での鍛錬なしでは、このように責任重大な役目は務まりそうにない。料理人は店の定休日に料理をあれこれと試作する。ミュージシャンは自宅で楽器の練習を繰り返す。システム設計が彼らの仕事より簡単だと誰が言えるだろう。

 というわけで、9月24日(土)という「せっかくの休日の午後」に平然と開催されるシステム設計のハンズオンセミナーである。実際にモデリングしてみて、自分がいかに設計スキルがないかを思い知る機会になるかもしれないし、なかなかイケてると自信を持てる機会になるかもしれない。いずれにせよ、「趣味はシステム設計」どころか、どこかのオメデタイ人物みたいに「趣味はシステム開発」と言えるようになるためのきっかけにしてほしい。


*1.日本企業では、専門家であるかどうかに関係なく「より多く働いた者」が評価される傾向がある。ありていに言えば「文句も言わずに毎日遅くまで働く者」が昇格する。この奴隷的な評価基準を刷新しない限り、日本人の労働時間の長さも、一人当たりの生産性の低さも、女性管理職の少なさも改善されないだろう。多くの日本人男性は「出世競争からはずされたくない」ゆえに、そうでなくても「マイペースな変人と思われたくない」ゆえに残業しているのが実情である。しかし「たまたま会社に所属していることもある個人事業主」である技術者は、この枠組みから自由になれるし、なるべきだ。そうでなければ、常態化した残業のせいで「趣味はシステム設計」どころではなくなってしまう。

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